Research Abstract |
閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は多くの合併症の基礎疾患となる重要な疾患である.昨年度の検討に加えて以下の研究から,OSASによる時計遺伝子に対する影響が明らかにされ,新しい病態が示唆された. 1.ヒト末梢血液における時計遺伝子のmRNA発現に対する影響因子 ヒト末梢血液のPeriod1(Per1)を解析した.Per1遺伝子上流のGlucocorticoid response element(GRE),cAMP response element(CRE)がin vitro,in vivoでPer1 mRNA発現増強に関与していた. 2.睡眠時無呼吸症候群患者における体内時計遺伝子群の変調解析 OSAS患者及び正常者群から末梢血液を18時,2時,6時,14時の4時点で採取しPer1 mRNA発現をReal-time PCR法により比較した.血清からコルチゾール,高感度CRP,ELISA法を用いてIL-6,血漿からノルアドレナリンを測定した.高感度CRP,IL-6,血漿ノルアドレナリンはOSASで上昇していた.per1 mRNA発現は正常者で深夜に低下,早朝に増加する日内変動を認めたがOSAS患者において特に睡眠中のPer1 mRNA発現が亢進していた. 3.培養細胞in vitroの検討 Per1遺伝子の発現に及ばす低酸素の影響をNIH3T3細胞,IL-6の影響をHep G2を用いて調べた.低酸素(2% O_2)およびIL-6刺激はPer1 mRNA発現を誘導しなかった. 4.マウスに対するin vivoの検討 明暗周期(明期;7:00-19:00,暗期;19:00-07:00)条件下で飼育したICR雄性マウス(3匹)にノルアドレナリン(1.5μg/hr)を浸透圧ミニポンプで持続皮下投与し,6日目における視交叉上核,大脳皮質,海馬,間脳,小脳におけるPer1遺伝子の発現量(13:00,01:00の2時点)をRT-PCR法で測定した.脳内で,視交叉上核のPer1遺伝子の発現パターン(Saline投与群は13:00に高値,01:00で低値)に影響を及ぼさなかったが,大脳皮質,海馬,間脳,小脳(いずれもSaline投与群は13:00に低値,01:00で高値を示した)においては13:00における発現レベルが上昇し,日内変動の振幅が低下する傾向が認められた. 以上,in vitro,in vivoの検討から,低酸素,IL-6によるPer1遺伝子に対する直接的な影響はほとんどないが,交感神経機能亢進によるノルアドレナリンなどの液性因子が直接,視交叉上核以外の脳および末梢臓器に影響を及ぼしている可能性が示唆された.
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