Research Abstract |
生体における最も強力な脈管作働物質であるウロテンシンII(UT2)の遺伝子多型(S89N多型)が,2型糖尿病と関連することを見いだした。UT2-副交感神経-NOシグナルがインスリン感受性,耐糖能を規定し,その異常が糖尿病の成因となるという新たな疾患概念の確立が,本研究の目的である。 平成17年度は,UT2アデノウイルスベクターを用いて、それぞれ通常食と高脂肪食を与えたC57B/6NマウスとKKAyマウスの肝臓にUT2を過剰発現させて,In vivoにおけるインスリン感受性と耐糖能へのUT2の関与を検討した。UT2を肝臓に過剰発現させると,通常食C57B/6Nマウスの体重増加は対照マウスに比べて有意に少なく,また随時血糖値も2週間有意に低値であった。通常食の肝UT2過剰発現マウスでは対照マウスに比べて,インスリン感受性と耐糖能は有意に改善した。高脂肪食負荷マウスでも,肝UT2過剰発現により随時血糖値も2週間有意に低値であった。また,肝UT2過剰発現は高脂肪食負荷C57B/6NマウスとKKAyマウスの耐糖能も有意に改善させた。NEU過剰発現により,肝臓グリコーゲン蓄積が誘導され,また,副交感神経-NOシグナル系のシグナル分子の発現亢進を認めた。肝UT2過剰発現マウスの肝では,肝臓インスリン受容体(IR)とIRS1のチロシンリン酸化は,インスリン刺激前後とも,対照マウスに比べて,有意に増強していた。しかし,通常食,高脂肪食負荷とも肝UT2過剰発現マウスの肝臓IRS2のチロシンリン酸化はインスリン刺激前,刺激後で,対照マウスと比べて有意の差異を認めなかった。高脂肪食負荷の肝UT2過剰発現マウス脂肪組織のインスリン剌激IRチロシンリン酸化は,対照マウスと比べて有意に増加していた。肝UT2過剰発現により,通常食C57B/6Nマウスのインスリン感受性と耐糖能改善,高脂肪食C57B/6NマウスとKKAyマウスにおける耐糖能改善を認めた。肝UT2過剰発現によるインスリン感受性と耐糖能改善の分子機序として,副交感神経-NOシグナルの亢進によるインスリンシグナルの改善という分子機序が示唆された。
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