Research Abstract |
セルレインで誘発されるマウス急性膵炎モデルを用いて,正常状態と急性膵炎病態での主要臓器に発現する炎症性受容体やアダプター蛋白の発現の変化を,ウエスタンブロット法,ノーザンプロット法,RT-PCR法を用いて,主要臓器で評価した。 平成18年度は,TLR4以外の炎症性受容体として,急性膵炎の肺や心房筋におけるTNF受容体1(TNFR1)とTLR2およびTLR9の発現を解析した結果,これらは急性膵炎の発症過程で,転写段階で増加するとともに,蛋白レベルでも細胞膜発現を高めることを見出した。Nuclear factor-κB(NF-κB)とactivator protein-1(AP-1)の転写因子のデコイ核酸を用いて,これら転写因子活性をリポゾーム法を用いてin vivoで抑制した結果,TLR2のみNF-κBの阻害により発現を転写段階で抑制できたが,TLR4,TLR9およびTNFR1の発現を抑制することができなかった。これらの炎症性受容体は,抗PAR1抗体や抗PAR4抗体ではなく,抗PAR2抗体やAP-1デコイ核酸で転写を抑制することができ,さらに,抗PAR2抗体やAP-1デコイ核酸で細胞膜への発現を抑制できることを確認した。さらに,このようなデコイ核酸を用いた遺伝子治療は,膵炎を生じる前の正常な段階よりも膵炎を作成している最中での投与により,主要臓器への導入が可能となった。炎症が生じる過程で,炎症の進行する臓器に導入効率が高まるかに可能性が示唆された。 本研究成果は,セルレインを用いた急性膵炎マウスモデルによる解析結果である。セルレインを反復投与する過程でPAR2の発現がさまざまな主要臓器で高まり,このシグナルにより,TLR2,TLR4,TLR9およびTNFR1などの炎症性受容体の発現が増加する。PAR2の細胞内シグナルとして転写因子NF-κBとAP-1が肺,心房筋,腎臓で活性化し,その結果として炎症性受容体の発現が亢進すると考えられた。急性膵炎では,このような炎症性受容体の発現が肺や心房筋や腎臓で高まる可能性があり,2次性侵害刺激として感染症に罹患した際には,主要臓器の炎症活性がより高められる可能性がある。このような観点より,転写因子NF-κBやAP-1に対する特異的遺伝子治療は,炎症を生じ始めた細胞に導入効率が高く,選択的に主要臓器細胞の炎症を抑制する可能性がある。急性膵炎病態を増悪させない治療として,転写因子NF-κBやAP-1に対する遺伝子治療が有効であると考えられた。
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