Research Abstract |
本研究では,多刺激痛み受容体であるTRPV1に注目し,骨がん疼痛でのTRPV1の関与を検討した. 1.マウス左大腿骨内にsarcoma cellを注入し骨がん疼痛モデルを作成した.モデル作成7,14日後に疼痛関連行動を評価するとともに,カプサイシン受容体(TRPV1)の発現をmRNA,タンパクレベルで検討した.対照として培養液のみを注入したマウスを用いた.さらに,TRPV1拮抗薬を投与しその鎮痛効果を調べた. sarcoma cell注入14日後,TRPV1は患側DRGでタンパクレベルおよびmRNAレベルともに発現が増加した.TRPV1陽性細胞の分布と数の変化を免疫組織染色で検討したころ,陽性細胞数の増加が認められた.TRPV1は生理的状態では主に無髄神経細胞と考えられる小型神経細胞に発現するが,患側DRGは中型から大型細胞にも発現が認められた.また,有髄神経のマーカーであるNF200,ベプチド含有神経のマーカーであるCGRPを発現する神経細胞でのTRPV1陽性率が増加した.選択的TRPV1拮抗薬I-RTXを投与したところフリンチ,健側下肢への体重の加重,歩行異常などの疼痛関連行動が用量依存性に改善した. 2.骨がん疼痛発現の主要な生理活性物質であるendothelin-1(ET1)とTRPV1の相互作用にっいて検討した.HEK293細胞にTRPV1とET-1受容体ETAを一過性発現させ,機能解析を行った.TRPV1とETAを共発現した293細胞においてカプサイシン,酸によって惹起される電流はET-1存在下で著明に増大した。また,ET-1存在下でTRPV1活性化温度閾値は著明に低下した.これらのET-1によるTRPV1の反応の増大はPKC阻害薬またはTRPV1のPKC作用部位の遺伝子操作により抑制された.また,ET-1によりTRPV1はPKC依存性にリン酸化された. 以上により,骨がん疼痛はTRPV1活性化により形成されること,TRPV1発現は骨がん状態では末梢神経レベルでその発現が増加すること,また,骨がん疼痛状態ではET-1などの生理活性物質によりTRPV1が機能亢進する,ことが明らかとなった.TRPV1は骨がん疼痛形成に重要な分子であり,その拮抗薬が新たな治療薬として期待される.
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