Research Abstract |
本年度は,歯根破折を惹起する可能性のある根管象牙質の歪みについて主に研究した. 根尖近くに可及的に小さいストレインゲージを貼り,根管象牙質の水平断面での外周方向の伸縮の大きさをストレインアンプにより電位に変換し,デジタルオッシロスコープで記録した. 根管内に水を満たすと,根管象牙質は膨潤し,膨張量は3時間ほどで極大に達した(最大8,000マイクロストレイン以上).また,この状態で放置すると,根管内の乾燥に伴い根管象牙質は収縮したが,もとの状態に戻るには24時間以上を要した. 側方加圧根管充填においては,1,000マイクロストレイン以下の歪みにより歯根破折が生じることが報告されているので,8,000マイクロストレイン(0.8%)の歪というのはかなり大きな値である.この結果は,根管内で用いられる薬剤あるいは根管洗浄剤によって,かなり大きく象牙質が膨潤している可能性を示唆した.9月には,イスタンブールで開催されたヨーロッパ歯内治療学会でこの結果を発表し,Clinical Poster Awardの一等賞を授与された. さらに,超音波振動,イーザー照射による逆根管窩洞形成時に生じる根管象牙質の歪みの大きさを同様の方法で調べた.その結果,Er:YAGレーザー照射群の方が超音波形成群より,象牙質内の歪みの小さいことが分かった.さらに,Er:YAGレーザー照射とNd:YAGレーザー照射を比較した実験では,Er:YAGレーザー照射群の方が歪みの小さいことが明らかになった. 根管内に脱灰促進剤を満たして根管形成する方法においては,根管壁の脆弱化に伴う歯根破折が危惧されるので,根管象牙質の変形(絶対量,経時的変化量)についてさらに研究を進めている.
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