Research Abstract |
臨床で多用される接着システムについて,その詳細が不明であったハイブリッド層の機能と質を分析するとともに,象牙質に対するレジンの接着機構の全容およびその耐久性に関与する要因を明らかすることを最終目標とした。すなわち,市販のワンステップ接着システムを用いて製作された試片について,その象牙質接合界面について歯質接着性試験ならびにフィールドエミッション走査電子顕微鏡を用いた接着界面の形態的観察を行うことによって,それぞれの接着システムにおける歯質の脱灰,レジン成分の浸透性およびレジンモノマーの濃度傾斜性を比較,これを詳細に検討した。さらに,広く工業界あるいは医学領域でも使用されている超音波パルス法に着目し,本法を用いてレジンと歯質との接合界面における超音波特性を非破壊的に測定することによって,弾性率を求めた。その結果,レジンの浸透した脱灰象牙質の物性は,ボンディング材の物性に影響を受け,これに比較的類似していることが判明するとともに,象牙質はその硬さを無機質であるハイドロキシアパタイトに依存しているが,これが除去されて象牙質に粘り強さを与えるコラーゲン線維を主体とする有機質成分のみが残存することによって弾性率が低下したものと考えられた。また,EDTAに24時間以上浸漬した象牙質試片め弾性率は,他の試験法で求められたコラーゲン単独の測定値とほぼ一致するものであったまた,脱灰樹脂含浸象牙質の物性は,長期水中浸漬によっても安定しており,これが優れた接着耐久性を示すための一要因となることが示された。以上の検討を総合することによって,ハイブリッド層,脱灰象牙質およびその部へのレジン浸透性,すなわちハイブリッド層の機能と接着性との関係の一端が明らかになった。
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