2006 Fiscal Year Annual Research Report
プレホスピタル輸液としての高張膠質液と、腸管微小循環と予後の関係についての検討
Project/Area Number |
17592112
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
大井 良之 日本大学, 歯学部, 教授 (60271342)
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Keywords | ヒドロキシエチルスターチ / 微小循環 / 出血性ショック / 生体顕微鏡 |
Research Abstract |
前年度の研究結果から、人工膠質液としては平均分子量175-225kDaのHESが幅広い出血性ショックにおいて良好な循環血液量改善効果を発揮することが認められた。本年度は、この人工膠質液と現在一般に用いられている酢酸リンゲル液、高張食塩液に人工膠質を加えた高張膠質液を用いて、救急の現場を想定した出血性ショックモデルでの輸液(Prehospital fluid therapy)を行った。特に、救命処置後の予後に関わるとされる腸管微小循環に着目した。 出血後に輸液を施さなかった群は受傷後90分までにすべて死亡した。本研究で用いた出血性ショックは重篤であり、輸液無しでは致命的であることが分かった。出血量の3倍量を投与した酢酸リンゲル液群、出血量と等量を輸液したHES群、出血量の約18%の7.5%NaClに人工膠質液を添加した高張膠質液群、いずれの群も輸液してから病院搬送時まではすべて生存した。しかし、大量の輸液を施した酢酸リンゲル液群では腸管粘膜血流が著しく低下し、HES群ではコントロール値の約2/3程度を維持した。最も少ない量を投与した高張膠質液群ではコントロール値のほぼ半分程度を維持した。これらすべての群で、病院到着後直ちに輸血を開始した。その結果、病院到着時から5時間後には高張膠質液群において、腸管粘膜血流は最も高値を示した。 出血源のコントロールの不可により輸液療法は左右される。本研究では受傷から病院での高度医療施行までのプレホスピタルにおける輸液療法に着目した。特に純粋な循環血液量減少を回復させる輸液療法に焦点を絞った。救急の場では、時間や人手が足りないこともあるため、少量で有効かっ安全な輸液が望まれる。従来、乳酸・酢酸リンゲル液のような細胞外液の大量輸液が救急における輸液療法の基本であった。確かに本研究でも晶質液の大量投与により病院到着までは生存可能であった。しかしその後の循環改善と維持という点からは疑問が生じる。中長期的な予後を鑑みると、腸管粘膜機能の維持、つまり腸管微小循環維持が重要な役割を示すことが知られている。本研究では、輸液を多く使用した群よりも少:量投与であった高張膠質液群が、受傷後5時間での腸管微小血流は最も多かった。 晶質液は投与量の約2/3は血管外に漏出するとされ、大量に投与される水分の大半は間質に移動する。これは組織への酸素供給に不利な要因となる。特に大量出血のように末梢循環不全を伴う場合、末梢組織は虚血に陥りやすくなる。また膠質液では膠質性分すべてが血管内に留まるわけではなく、一部は間質に留まり浮腫を形成すると考えられる。本研究結果からも、高張膠質液は十分な潅流圧を保つことはできなかったが、腸管微小循環の血流維持に有利に働いていることが示された。これは高張膠質液が血管周囲の浮腫を発生させにくいことを示唆するもので、病院到着後の輸液療法に有利に働くものと思われる。
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