Research Abstract |
重篤な心血管病発症予防に、降圧薬やスタチン等の使用が一定の効果をあげている。一方、減塩、運動などの生活習慣変容も高血圧、糖尿病の発症、進展に効果があることが報告されている。しかしながら、一部の画像検査による定量的評価を除くと、薬剤やサプリメント摂取などの中期曝露の指標となりうるバイオマーカーは数少ない。本研究では、爪を用いた微量元素解析法を開発し、健常者と高血圧患者における爪微量元素分析を実施した。 大阪大学医学部附属病院臨床研究倫理委員会の承認を得た後、実施された。本院の老年・高血圧内科外来において、98名の高血圧患者、全国の協力医療機関において406名の健常者より爪試料を採取し、洗浄乾燥させ、一定量秤量後、硝酸溶液とマイクロウェーブ装置で完全に融解し、誘導結合プラズマ質量分析法(ISP-MS法)を用いて微量元素の定量評価を実施した。測定した微量元素の内訳は、Ca, P, Na, K, Mg, Zn, Cu, Se, Cr, Mn, Co, Mo, Al, Hg, Pb, As, Cdの17種類であった。また同時に生活習慣に関する詳細な問診も実施した。 本研究における高血圧群の平均年齢は62才、男性比率が52%、BMIが24.2kg/m^2と、健常者群の39才、39%、22.0kg/m^2よりも有意に高値であった。このため、性、年齢、BMIで補正後、高血圧・健常者群間で微量元素レベルの比較を行った結果、Naが高血圧群で有意(p=0.036)に高く、Kが高く、Mgが低い傾向(p<0.1)が認められた。一方、加齢に伴いV, Hgは著明に上昇(p<0.0001)し、Mg, Zn, Mn, Alは有意な増加、P, Na, Cuは有意な低下を認めた。P, Na, K, Mg, Al, Hg, As, Csは男性で高く、Znは女性で高値であった。爪微量元素分析は、環境因子の中期曝露の指標として有用であると考えられる。
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