Research Abstract |
周生期ダイオキシン曝露による老齢期の行動・記憶への影響を探る目的で,妊娠後期のラットに微量のダイオキシン(TCDD:体重1kgあたり100ng)を投与し,生まれた新生仔をダイオキシン曝露ラットとして実験に用いた.その結果,TCDD投与により雄の平均寿命は92.5±36.9週齢,雌は119.9±15.4週齢となり,雄は20%,雌は9%の寿命短縮が認められた.また,TCDD処理群では雌の体重低下が見られたが,雄では増減は認められなかった.さらに,投与群では下痢等の消化器系の異常,皮膚異常,腫瘍等の外部形態的異常もあらわれた. TCDD曝露による新生仔期でのラット脳の形態学的変化ついて調べてみると,処理により線条体および分界条床核領域でアポトーシス数の増加と細胞の変性が見られたが,神経細胞数の増減は認められなかった.さらに,TCDD曝露後,成熟期に達したラットの脳は,線条体および海馬領域で新生仔期とは異なって神経細胞数が増加するのに対し,細胞の大きさは縮小することがわかった.また,オープンフィールド実験により,運動機能異常や情動面での異常,雌雄のにおいへの反応についての行動異常が観察された. これらの実験結果は,周生期に曝露したダイオキシンがその後のラットの成長,成熟および老化に影響をあたえ,寿命の短縮に関与していることを示している.さらに,このダイオキシンの影響により脳の構造異常を引き起こし,その結果,脳の機能異常を誘発し,最終的に運動調節機能や感覚,情動,記憶機能の異常といった行動面での変異を惹起する可能性が示唆される.今後,このTCDD曝露動物の加齢に伴う行動・記憶変化について解析を進める予定である.
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