Research Abstract |
周生期ダイオキシン曝露による老齢期の行動・情緒・記憶への影響を探る目的で,妊娠後期のラットに微量のダイオキシン(TCDD:体重1kgあたり100ng)を投与し,生まれた新生仔をダイオキシン曝露ラットとして,出生から死亡まで継続飼育した.その結果,TCDD投与により雄の平均寿命は750.0±205.5(対照群:784.8±113.2日齢),雌は808.9±211.8日齢(対照群:852.4±125.4日齢)となり,雄雌ともに5%の寿命短縮が認められた.しかし,最長寿命は雄では1008日(対照群:1008日),雌では980日(対照群:1008日)であり,大きな差は認められなかった.加齢に伴う体重変化は,TCDD処理群では雌の低下が見られたが,雄では顕著な増減は認められず,性による違いが明らかになった.また,投与群では下痢等の消化器系の異常や皮膚の異常があらわれ,腫瘍の発生率も対照群に比べ高く,周生期曝露の影響が成長期以降にも残っていることが示された. TCDD曝露後,中齢期(12-14ヶ月齢)に達したラットの脳は,線条体および海馬,扁桃体領域で,面積当たりの神経細胞数と神経細胞の大きさに違いが認められた.また,行動解析のためのオープンフィールド,十字型迷路,プール迷路実験により,運動機能や情動行動,学習反応について異常が観察された.これらの結果は,脳構築期でのTCDD曝露の影響によるものと考えられる.今後,老齢期(24-28ヶ月齢)に達したTCDD曝露動物の行動・記憶と脳神経の変化について比較・検討し,ヒトへの影響について考察する.
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