Research Abstract |
ルールには,人の行動や認知に関する定型・習慣のような行動ルールや,そうした人の行動や認知を社会的に規定する慣習・法のような社会ルールだけでなく,こうした行動ルールや社会ルールの存在する範囲をより上位レベルから制約するメタルールがある。制度とはこのようなルール/メタルールの体系として把握できる。社会には影響力と安定性が異なる様々な制度が複合的に存在する。本研究では,ルール間相互作用と人々の認知・行動の変化を通じて,複数の制度が生成・変化する動的様態を「制度生態系」と捉え,制度形成・変化のルールダイナミクスを数理モデル構築と調査により理解することを目的とする。 今年度は,事実が社会的に,すなわち主体集団の行動によって決まる場合と,主体達の行動とは関係なく決まる場合が複合している状況における制度形成を調べるエージェントモデルを構築した。このモデルでは,ヴェブレンの制度の定義にのっとり,主体の意思決定方法が斉一的であるとき制度が成立したと見なす。この研究では,情報提供者がしばしば解釈エラーを起こす,情報受容者があまり解釈エラーを起こさない,事実が社会的に決まる,という3つの条件が成り立つ場合に,制度が形成されやすいことがわかった。 また,「制度生態系」の概念を明確にするために,ハイエク,青木,ボウルズ,フリートウッド,ヴェブレン,ノース,郡司らの制度概念を検討し,複数制度の複合的関係のあり方を議論した。青木ら比較制度分析学派は,制度的補完性を重視し,複数の制度が相互補完的であるので制度変化はまれであると考える。制度生態系では,複数の制度が代替的・補完的に相互作用するからこそ,一つの制度変化が別の制度変化へ波及することがある。最初の制度変化については,主体の持つ内部ダイナミクス,ミクロマクロ・ループ,競合的相互作用が重要であることを,別のエージェントシミュレーションにより示した。
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