2006 Fiscal Year Annual Research Report
ナラトロジー(物語り論)による「二人称の科学」の方法論的基礎づけ
Project/Area Number |
17652002
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
野家 啓一 東北大学, 大学院文学研究科, 教授 (40103220)
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Keywords | ナラトロジー(物語り論) / 人間科学 / 科学的説明 / 物語り的説明 / 科学方法論 / 人格的相互行為 / 因果性 |
Research Abstract |
平成18年度は研究実施計画に記した課題のうち、「(3)科学的説明と物語り的説明の差異と連関をめぐる言語論的・認識論的考察」に焦点を合わせ、特に両者に共通する「因果的説明」および「因果性」の概念について集中的な検討を行った。その際に手がかりとしたのは、黒田亘によって提起された「志向性とは制度化された因果性である」というテーゼであり、またB.ラッセルによる「原因」概念の分析である。科学的説明と物語り的説明は、ともに時間的に隔たった二つの出来事に言及し、それらを員がk性(原因と結果の関係)というカテゴリーに包摂することによって説明の機能を果たす。原因と結果を結びつけるのは、科学的説明の場合には「自然法則」であり、物語り的説明の場合には「プロット」である。自然法則が二つの出来事を一義的・必然的に結びつけるのに対し、プロットは出来事が生じる文脈に応じて多様であり、そのには偶然性が介在する。言い換えれば、科学的説明は「直線的(最短距離)」であるのに太子、物語り的説明は「曲線的」である。一方で、科学的説明においては、原因と結果の時間的隔たりは無限小にまで縮減することができる。そのではもはや「因果性」のカテゴリーは意味をなさない。また、自然法則においては、各変数の間の関係は時間的に隔たった原因と結果の関係ではなく、相互的な関数関係として捉えられるべきものである。それゆえ、ミクロスコピックな視点に立てば、科学的説明は因果概念を必要としない。他方で、メゾスコピックな観点からなされる物語り的説明においては、原因と結果の時間的距離は不可欠のものであり、それを縮減することはできない。その意味で、因果概念のルーツは日常的な行為の場面にるのであり、原因と結果のカテゴリーは「物語り」の文脈においてこそ十全に機能するのである。以上の知見については、哲学会(18年4月、東京大学)の特別講演、統合学会(18年12月、熱海)の基調講演、数理脳科学研究会(19年3月)の小体講演において口頭発表して専門研究者の批判を仰ぎ、議論を深めることができた。
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Research Products
(4 results)