2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17652080
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
太田 好信 九州大学, 大学院比較社会文化研究院, 教授 (60203808)
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Keywords | 文化の所有 / 文化の流用 / 壁画 / ジャン・シャルロー / 先住民 / 著作権 / 器物返還 / 記憶回復 |
Research Abstract |
本年度の研究では、文化が集団の所有物として主張されるとき、そのような主張をいかに評価するか、その主張が展開される具体的社会状況にそくして考察した。平成17年度から今年度にかけても、戦争中に死亡した兵士の遺品等の遺族への返還、すでに流行が去ってしまった音楽の著作権主張の弛緩についての検証を継続した。文化の所有権を現在もっとも強く主張するのは、これまで近代国家内部で抑圧されてきた先住民である。平成18年11月には、カリフォルニア大学バークレー校のバンクロフト図書館で先住民文化遺産の返還を求める運動について文献調査を行った。さらに、平成19年3月上旬から中旬にかけて、昨年度からの調査をおこなっている、フランス人芸術家ジャン・シャルローがホノルル市内に作成した壁画を実地調査し、その作成過程にかかわる資料が保存されているハワイ大学・シャルロー資料室で文献調査をおこなった。彼は20年代のメキシコでの壁画運動に参加し、30年代の不況下の米国各地でも数多くの作品を残している。49年にハワイにやってくると、当時すでに消滅しているといわれたハワイ先住民文化を壁画のモチーフにする。当時は、彼がそのテーマを選ぶことに驚きの声があがったという。対象との所有関係を申し立てることができない芸術家は、いまでは非難されることもあるが、彼の作品に対しては、そのような声はほとんどあがらなかった。その理由には、シャルローがハワイ語を習得する努力など、対象テーマへのアプローチの仕方にあった。国家が提唱する多文化主義が空洞化し、「文化アパルトヘイト」状況を是認するとき、シャルローの芸術作成の姿勢を再評価する必要があるという評論に達した。
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