2005 Fiscal Year Annual Research Report
被侵害利益の主観化と不法行為法学の課題--セクシュアル・ハラスメントの衝撃
Project/Area Number |
17653009
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
吉田 克己 北海道大学, 大学院・法学研究科, 教授 (20013021)
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Keywords | 不法行為 / 被侵害法益の主観化 / 被侵害法益の公共化 / セクシュアル・ハラスメント / ドメスティック・バイオレンス / モラル・ハラスメント / PTSD / 損害賠償 |
Research Abstract |
初年度である本年度は、文献の収集とその読解による問題意識の深化、実務家を中心とする専門家との交流による具体的問題の掌握に力を注いだ。それらの作業の結果、次のような知見を獲得しつつある。 1)本研究の基本的問題意識である「被侵害法益の主観化」は、予想より広い拡がりをもって見出される。当初考えていたセクシュアル・ハラスメントやドメスティック・バイオレンスだけでなく、パワー・ハラスメントやモラル・ハラスメントといわれる問題領域が出現しているのである。他方、PTSDやむち打ち症に基づく愁訴など従来から損害賠償法上の難問とされてきた問題も、同様の問題構造を備えていることが分かってきた。 2)しかし、「被侵害法益の主観化」を法的にすくい上げる理論は、いまだ十分には開発されていない。実務においては、問題の所在自体気付かれていないケースが少なくない。問題の所在は認識している場合にも、法的にそれを考慮するのは困難であるとして従来の理論に安住する例が多い。 3)「被侵害法益の主観化」は、一見すると私的次元の問題であって公共性と関係がないようにも見える。しかし、そうなのではない。たとえば、セクシュアル・ハラスメントは、その防止という点に着目するならば、すぐれて公共的性格を有する。他方、「被侵害法益の公共化」も、同時に「被侵害法益の主観化」という側面を持つ。たとえば、「被侵害法益の公共化」の代表的事例である景観侵害は、個人の次元で捉え返すと、すぐれて主観的な利益の侵害になる。このように、「被侵害法益の主観化」と「被侵害法益の公共化」との間には、相互の移行関係が存在することに気付いたことは、この間の重要な理論的獲得である。 これらの知見を踏まえて、最終年度である次年度には、一定の理論的まとめを行う。
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