2006 Fiscal Year Annual Research Report
社会開発の新たな枠組みの模索:社会福祉とソーシャルワーク実践の視点から
Project/Area Number |
17653054
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
稲葉 美由紀 九州大学, 大学院言語文化研究院, 助教授 (40326476)
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Keywords | ソーシャルワーク / 社会開発 / コミュニティーワーク / 地域福祉 / エンパワーメント / 高齢化 / 社会的弱者 / 国際社会福祉 / 住民参加 |
Research Abstract |
2006年度(中間年)1月1日〜10日まで、バングラデシュ人民共和国に滞在し、現地ではダッカ大学社会福祉・研究所、開発NG0のBRAC及びGrameen Bankなどを訪問した。また、少額融資を実施しているNGOであるALWO(Natore、ダッカから約4時間)で聞き取り調査を行った。ダッカ大学では社会福祉・研究所の大学院生へ「日本における社会開発への取り組み」に関して講演を行うと同時に、バングラデシュにおけるソーシャルワークの役割、領域、現状と課題、開発との関連に関して関係者および学生と議論した。また、バングラデシュのヒ素問題に取り組んでいる、「アジアヒ素ネットワーク」のダッカ事務所にて、ジョソール県でのJICAとのプロジェクトに関して代表者から説明を受けた。今後、この問題に関する啓蒙活動、地域内の組織化、リーダーの養成、外部資源との連携など、コミュニティ・ソーシャルワークの援助技術の必要性も明らかになった。 8月5日から15日まで、スリランカに滞在し現地での聞き取り調査及び視察を実施した。訪問先は、現地開発コンサルタント(ETA Lanka),現地NGO(サルポダヤ,南アジア女性のパートナーシップ,Women's Bank)、大学(コロンボ大学社会福祉学部・大学院)、政府機関(Ministry of Social Services and Social Walfare)、国連ハビタットなどであった。現地で「社会福祉サービス向上プログラム」の一環として障害者を対象とする「Community-Based Rehabilitation」の活動内容に関し、長年現地の福祉分野に関わっている青年海外協力隊シニア隊員から現状報告も受ける。サルボダヤでは、創立者であるアリヤラトネ氏と紛争・平和センターに関わっているサルボダヤ担当者(Dr.Marasinghe)からも近年の活動について、さらにサルボダヤ敷地内における聴覚障害者のための学校(Sarvodaya Sawan Sahana Sewa)の校長先生からもサルボダヤの聾児童への教育、就学訓練などの取り組みについて聞き取り調査を行った。現在、スリランカにおいて、児童労働、非行、高齢者の介護、障害者福祉などの分野でソーシャルワーカーのニーズは非常に高く、貧困との問題と強く関連している。社会サービス・福祉省はコロンボ大学社会福祉大学院に博士課程の設置を予定している。貧困を取り巻く様々な社会問題に取り組んでいけるコミュニティソーシャルワークの必要性が指摘された。特に、津波後の地域社会の復興に欠かせない専門職だと言える。 10月15日から23日まで、「第一回アジア太平洋支部国際社会開発コンソーシアム」の国際会議に国際組織委員・口頭発表・座長として参加した。アジア太平洋地域と地元タイからの約300名の出席した。この会議のメインテーマは「グローバリゼーション、人間の安全保障、開発」で、主にソーシャルワーク研究者・実務者が参加し、各国の現状や課題に関して議論、意見交換、ネットワーキングした。この会議中に高齢者福祉、児童福祉、障害者福祉、貧困、少数民族・マイノリティ、ジェンダー、人権、HIV/AIDS、環境と貧困、自然災害、人身売買、識字・教育などのサブテーマに関する情報収集した。特に地元タイ発表者の「一村一品運動(OTOP)」や「30バーツ医療政策」を通しての、貧困削減政策とその成果に関する分析、環境と貧困との課題についての発表は大変興味深かった。 中間年度の本研究課題への取り組みは、(1)海外調査(バングラデシュ、スリランカ、タイ)及び国際会議参加を通して情報収集、専門家との意見交換・聞き取り調査を実施し、社会福祉と社会開発の概念の把握及び実践レベルでの課題について検討した。
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