2006 Fiscal Year Annual Research Report
親和と反発-日本留学中国人学生と欧米留学中国人学生の思想形成と社会環境
Project/Area Number |
17653106
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
吉川 榮一 熊本大学, 文学部, 教授 (50191549)
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Keywords | 留学生政策 / 留学生文学 |
Research Abstract |
平成18年度は、初年度である17年度に引き続き基礎的な資料の収集に努めるとともに、留学生文学の分析をも継続して行った。資料収集の面では、17年度に収集した書籍が比較的現在に近い1980年代後半以降の海外留学ブームのなかの留学生の紀行文・体験記などが多かったのに対し、18年度に収集した資料は20世紀前半に日本あるいは欧米に留学した経験のある中国人知識人の著作をも含む、ある程度幅広い範囲に及んだ。留学生文学の分析については、昨年度に引き続き、『中国留学生文学大系』(全6巻、上海文芸出版社、2000年)を軸として研究を進めるとともに、インターネット上で公開されている資料についても分析を加えた。その結果、日本の留学生文学がやや停滞気味の状況にあるのに対して、北米地域の留学生文学が活況を呈し、留学生文学という枠を超えてイミグラント文学として成熟しつつあるのではないかと予感させるものがあった。日本留学経験者の作品には、経済的な苦しみやビザや保証人をめぐる悲喜劇に相変わらず囚われがちであり、日本社会に溶け込めぬ悲哀や日本人との人間関係に対する違和感を強くにじませたものが多い傾向があるのに対し、アメリカ留学経験者の作品には、アメリカ人との考え方・感じ方の違いに戸惑いつつも、アメリカという新しい土地でどう自分の運命を切り開いていくのかという積極性を感じることができる。住んでいる国民のほとんどが日本人という均質的な色彩の濃い国とは異なり、アメリカはそもそも移民の国として建国されたという歴史的背景があり、中国人留学生も「新移民」としてアメリカにとけ込む可能性に賭けようとしているようである。 資料の収集を兼ね、台北市に調査旅行に赴いた。熊本大学に留学した経験を有する8人の元留学生に集まってもらい、台湾に戻ってからの生活と留学経験との関係、日系企業での職務内容や処遇などについて話を聞くことができた。昨年度訪問調査を行った大連市の元留学生の話と重なる部分も多く、また、大連市の元留学生同様、台湾の元留学生もみな1,2度の転職を経験していたが、台湾の元日本留学生の方が、現在の処遇に満足しているように感じられた。こうした違いの背景については、さらに検討を加えていきたいと考えている。
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Research Products
(1 results)