Research Abstract |
サイクリック・ボルタンメトリーと時間分解吸収分光を同期させて、時間分解酸化還元電位制御吸収スペクトル計測装置を開発し、真の意味での電気化学を制御した吸収スペクトルを測定することにより、光合成初期過程において重要な役割を担うクロロフィル・カロテノイド等の光合成色素の一電子酸化、二電子酸化状態の高速ダイナミクスを直接計測することを目的とする。そのために、まず(1)μ秒時間分解吸収スペクトル測定装置とサイクリック・ボルタンメトリーを同期させ、試料の酸化還元電位がある一定の場合の時間分解吸収スペクトルを測定する装置を開発し、光合成初期過程でその一電子酸化状態のダイナミクスが重要な役割を担っていると考えられるβカロテンの一電子酸化状態についてそのμ秒ダイナミクスを測定する。次に(2)サブピコ秒時間分解吸収スペクトル測定装置とサイクリック・ボルタンメトリーを同期させ、100フェムト秒〜100ピコ秒の高速におけるダイナミクスを測定する。初年度は,一連の研究の手始めとして,サイクリック・ボルタンメトリー装置を自作した。測定対象となる試料として,高等植物の光合成系におけるカロテノイドの二次電子移動過程を解明するモデル物質と目される,極性カロテノイド類の一種(2-all-trans-retinylideneindane-1,3-dione (RetInd))を取り上げ,そのカチオンラジカル状態を電気化学的に生成した。この系と,ミリ秒オーダーの時間分解能を有するダイオードアレイ型マルチチャンネル光検出器とを組み合わせることにより,時間分解酸化還元電位制御吸収スペクトル計測装置のプロトタイプを完成した。RetIndの任意の酸化状態に電位を固定し,その後の時間変化を追いながら,多波長同時に時間分解的に吸収スペスペクトルを測定した。本計測方法をマルチチャンネルクロノアブソープトメトリーと命名した。この新しい,電気化学分光計測法により,RetIndの1電子,2電子,および多電子酸化状態に帰属できる分子種の吸収スペクトルを測定した。
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