Research Abstract |
本研究は,サイクリック・ボルタンメトリーと時間分解吸収分光を同期させて,時間分解酸化還元電位制御吸収スペクトル計測装置を開発し,真の意味での電気化学を制御した吸収スペクトルを測定することにより,光合成初期過程において重要な役割を担うクロロフィル・カロテノイド等の光合成色素の一電子酸化,二電子酸化状態の高速ダイナミクスを直接計測することを目的とする。研究初年度は,サイクリック・ボルタンメトリーとミリ秒オーダーの時間分解能を有するダイオードアレイ型マルチチャンネル光検出器とを組み合わせることにより,時間分解酸化還元電位制御吸収スペクトル計測装置のプロトタイプを完成した。本年度は,完成した装置を用いて,極性カロテノイドの一種である,2-all-trans-retinylideneindane-1,3-dioneの共役鎖長を改変した種々の同族体について,一電子,二電子及び多電子酸化状態の吸収スペクトルの測定を行い,予備的な実験結果の蓄積に成功した。上述の装置の時間分解能を向上し,マイクロ秒オーダーでの時間分解能を達成するために,CCD光検出器との同期を試みた。CCD検出器のフレームトランスファーモードを使用することにより,当初計画どおりの時間分解能を達成したが,CCD検出器の各ピクセルのウェルサイズ(量子効率)の不足とピクセルの空間配置(クロストーク)の問題から,物性を議論できる程度の精度を持つ,吸収スペクトルの取得が困難であることが明らかになった。装置の時間分解能を向上させつつ,スペクトルの質も劣化させない別の手段として,リニアダイオードアレイイメージセンサーを用いた装置の試作を思い立ち,試験的に同光検出器を導入し,光応答・電気応答・繰り返し速度に関する基礎的データの取得を行った。その結果,同光検出器を時間分解酸化還元電位制御吸収スペクトル計測装置に採用することにより,当初目的どおり,フェムト秒一マイクロ秒の時間領域において,時間分解分光測定が可能であることが示唆された。
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