Research Abstract |
あらかじめ固溶化熱処理した鉄鋼基材表面をスパッタエッチングすると,表面に炭化物が析出すると同時に,炭化物がスパッタによって削られ,表面に硬い円錐状の微細突起物が形成される。析出物の密度は,粒界と粒内,結晶方位で異なり,析出物のアスペクト比(円錐の直径と高さの比)は,材料によって異なる。析出物の形成と成長には,スパッタエッチング時の空孔の導入,温度勾配,電気ポテンシャル勾配,基材と析出物のスパッタ率の差,析出物の成長速度(炭素原子の拡散速度)などが関係していると思われるが,それらの機構は未解明である。本研究の目的は,このような析出物の形成機構を明らかにするとともに,この特徴ある突起物を実際の製品に利用するために必要な,析出物の形態,アスペクト比,大きさと分布をコントロールする方法を見出すことである。 本年度は,固溶化熱処理温度を変えることによって残留炭化物の量を変化させたSKD5工具鋼試料をスパッタエッチングし,残留炭化物が存在しない場合には均一で先端の鋭い微細な円錐状炭化物が形成されるが,残留炭化物が存在する場合には,素地中の炭素原子が非常に少ないにもかかわらず,先端の鈍い残留炭化物に混じって,先端の鋭い炭化物が新たに形成されることを明らかにした。後者の機構としては,試料内部から炭素原子が拡散した,残留炭化物が溶解した,あるいはスパッタされた炭化物中の炭素が再付着した,などの機構が考えられる。この突起物を触媒やコールドエミッターなどに用いる場合には,固溶化熱処理が不可欠であるが,表面硬化層として用いる場合には,残留炭化物の多い通常の焼入れ焼戻し処理材をスパッタエッチングすればよいことが明らかになった。 その他,SUS304ステンレス鋼について,析出突起物の大きさおよび分布に及ぼす結晶粒径の影響を調べ,粗大な炭化物も形成できることを明らかにしている。
|