Research Abstract |
水利施設における魚類の行動を記述する基礎理論を構築するため,試験サイトの選定,観測システムの構築,デジタル動画像を中心としたデータの取得,データの解析,Fokker-Planck偏微分方程式の適用と内部境界条件の導入によるモデル化を行った.試験サイトは,滋賀県旧びわ町益田の農業排水路に選定した.この農業排水路は,琵琶湖に注ぐ一級河川丁野木川の支流である益田川に道路下に埋設された土管を介して接続している.豪雨時には,益田川の水位が上昇し,土管内さらには農業排水路まで背水の影響が生じる.そのような状況が,コイ,ナマズ,フナなどの産卵期に発生すると,通常は琵琶湖を生活の場としているそれらの魚類が,丁野木川,益田川,土管を経て農業排水路に侵入する.これは,農業排水路からさらに水田へ遡上して産卵を行うためであるが,現在の圃場整備のなされた農業排水システムにおいては農業排水路と水田の間に大きな落差があるため遡上が阻害される.この試験サイトでは,農業排水路に階段状に堰板を設置することにより,そのような落差を解消して魚類が水田へ遡上することを可能にしている.それらの堰板を被覆する形で観測やぐらを組み,暗視ビデオカメラを鉛直下向きに設置し,パソコンに接続してデジタル動画像を保存するシステムを構築した.また,雨量と農業排水路水位を自動観測する機器も設置した.7月4日の豪雨時に8時間の連続観測を行い,多数のニゴロブナが遡上する状況を記録することができた.魚類遡上確率の時空間分布を支配するFokker-Planck偏微分方程式および堰板地点におけるその内部境界条件を解析的に導き,実測データに適用して数値計算を行った.本年度の研究は,農業排水路内に限定されたものであったため,次年度においては琵琶湖から河川,試験サイト以外の農業排水路などを含めた水系ネットワークへモデルを拡張する予定である.
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