2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17659127
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三室 仁美 東京大学, 医科学研究所, 助手 (80396887)
|
Keywords | 細菌 / シグナル伝達 / 微生物 |
Research Abstract |
ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)は、ヒトの胃粘膜に付着して持続感染を引き起こす病原細菌であり、胃炎、消化性潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃ガンの発病と関連することが多くの研究から示唆されている。本菌のcag pathogenicity island(cagPAI)遺伝子群にコードされているIV型分泌装置を介して、菌体病原因子が宿主細胞側へ分泌・注入されることで、宿主転写因子NF-κBの転写活性が増大することが、病原性に重要であると考えられているが、転写活性増大に決定的に重要な菌体因子と宿主因子の同定には至っていない。 そこで本研究では本菌の分泌装置の分子機構と、宿主細胞内でのNF-κB活性化の分子機構を明らかにすることを目的とした。 まず、上皮細胞への感染時に、菌体が直接接触する細胞膜上における作用部位を明らかにするために、胃上皮細胞株AGSに野生型や各種遺伝子改変変異ピロリ菌を感染させて、細胞表面の脂質ラフトドメインの位置とピロリ菌菌体の付着部位を、蛍光免疫染色法により精査したところ、NF-κB活性化能を有するピロリ菌は、付着部位に脂質ラフトが優位に共存することが明らかになった。脂質ラフトドメインはコレステロール、スフィンゴ脂質やセラミドなどに富む細胞膜上の微小領域であり、多くのシグナル伝達に関与するレセプターが局在することが知られている。次に、細胞膜上での感染部位への脂質ラフトの集積が、感染によるNF-κB活性化に機能的に関与するかどうかを解析するために、脂質ラフト形成阻害剤を感染実験に供したところ、これら阻害剤によって感染によるNF-κB活性化が著しく阻害されたことから、IV型分泌装置依存的なNF-κB活性化には、細胞表面の脂質ドメインの集積が重要であることが示唆された。一方、菌体によって宿主細胞へ注入されることが明らかになっているCagAタンパク質の細胞内注入は、脂質ラフト形成阻害剤によって阻害されなかったことから、脂質ラフトドメインは、菌体の分泌装置の作動を制御するのではなく、分泌装置依存的なNF-κB活性化経路に関与することが示唆された。
|