Research Abstract |
Hopper&Traugottが提唱する仮説「再分析と類推が文法化に不可欠」を採用し,Kirbyの繰り返し学習モデルをベースに,文法化を行うエージェントのモデルを構築した.本研究では「再分析」「類推」を認知能力として再定義し,また,カービーのモデルを認知的観点から検討する.この検討により,これらの認知能力とカービーの計算モデルに入っている3つの学習操作との関係を明らかにした. Kirbyの元々のモデルでは機能的意味が入っていないため,我々のモデルでは「時制」を導入した.そして,内容語から機能語への意味変化がどのようなプロセスで生じるか、そのときに必要な認知能力が次のようなものであるはどのようなものかを,コンピュータシミュレーションにより明らかにした. まず,言語変化がおきるために,再分析,認知的類推,言語的類推という3つの能力が有効であることが明らかになった.これらは,それぞれ,「再分析=自らの基準によって文の区切りを決定し,文の構造を把握することができる能力」「認知的類推=形式間,および,状況間に類似性を見いだす能力」「言語的類推=文法規則をそれまで適用されていなかった形式に拡大適用できる能力」と定義される. しかし,この3つの能力だけでは,文法化に見られるような変化の一方向性,すなわち,内容語から機能語への変化がほとんどであるとうい性質は再現されない.一方向性がおきるためには,意味の構造,特に,プロトタイプ性を理解する次の2つの能力が必要である.それらは,「意味領域の重なり=変化元のである意味が他の特定の意味と意味領域の重なりをもつと認識する」「関連性=変化元の意味と変化先の意味との間に関連性を見いだす」である.特に,前者が意味変化の頻度を上げ,後者が意味変化の行き先を決定するという傾向が見出された. また,「言語的類推能力」が,人間言語の重要な特徴である「超越性」すなわち「いま,ここ,わたし」から離れた発話が可能であるという性質に関連することを示した.
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