2005 Fiscal Year Annual Research Report
河川アオノリの分子生物地理学的研究および低塩分耐性と形態形成に関する解析
Project/Area Number |
17687007
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
嶌田 智 北海道大学, 創成科学共同研究機構, 助手 (40322854)
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Keywords | 系統進化 / 環境 / ゲノム / 分類学 / 海洋生態 |
Research Abstract |
緑藻アオサ・アオノリ類は世界中の沿岸域で最も目立つ海藻類で、世界で約150種が報告されている。この仲間は、実は、河川でも生育している。本研究では、まず河川アオノリの種多様性を明らかにするため、全国レベルでの分布調査を行い、形態観察・ITS領域の塩基配列・交雑実験によって種を同定した。採集は沖縄県は天然記念物である塩川をはじめとして,小笠原諸島,奄美大島,種子島,九州,四国,日本海,太平洋および北海道の各河川で行った。これら採集品140個体からDNAを抽出し,核コードITS領域の塩基配列を決定した。このデータを,海産アオサ・アオノリ類のアライメントファイルに加え分子系統樹を構築した。その結果,河川アオノリは,7種類に分かれた。これら7種類のうち,既にGenBankに登録されている世界中のアオサ・アオノリ類とクレードを組むもの(種のDNA鑑定ができたもの)はUlva flexuosaキヌイトアオノリとU. linzaウスバアオノリだけであった。つまり残りの5種類は新種もしくは日本新産の可能性が高い。 最も多くの個体が含まれたのはU. linzaウスバアオノリのクレードであった。ウスバアオノリは海産であるが,河川アオノリとの関係をさらに詳細に解析し,河川アオノリの分布域拡大の方向性、環境適応の回数さらにはその起源などを明らかにするために,次に、ITS領域より解像度の良い遺伝マーカーである5SrDNAスペーサー領域を用いて個体群間の分子生物地理学的解析を行った。その結果,海産ウスバアオノリは遺伝的多型が高く,河川アオノリは低かった。また,河川アオノリは一つのクレードにまとまった。以上のことから,「河川アオノリはごく最近海産ウスバアオノリから分化し,それは進化の過程でたった1度だけ河川という汽水域に適応した株が,全国の河川へと分布を拡げていった」という進化のストーリーが考えられた。
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