Research Abstract |
1.はじめに 東京湾に位置する京浜運河は,下水処理場からの放流水の流入負荷が著しい場となっている。このため,貧酸素水塊が形成され,運河に生息する生物に多大な影響を及ぼしている。下水処理水が東京湾の環境に与える影響を評価する上で,微生物は重要と考えられる。しかし現状では,運河における微生物群集について,ほとんど知見が得られていない。そこで我々は,下水処理場からの放流水が,微生物群集に与える影響を明らかにするために研究を行った。 2.実験方法 京浜運河内で,2006年8月,表層および底層の計20試料の採水を行った。現地測器観測と多筒採水器を用いた鉛直方向採水を行なった。調査地点ごとの微生物群集を比較するため,持ち帰った試料に対し,まず3μmのフィルターでプレろ過を行い,続いて0.2μmフィルターでろ過を行なった。抽出DNAから16S rRNA遣伝子をPCR増幅し,DNAシーケンサーを用いて,制限酵素末端断片長多型解析を行った。得られた結果から地点間の微生物群集組成の類似度を計算しデンドログラムを作成した。 3.結果と考察 最高水温は27℃と高く,強い塩分成層が確認された。また,底層ではDOが1mg/lを下回るような貧酸素水塊が調査地点S2〜S10において形成されていた。T-RFLP解析の結果,貧酸素水塊が形成されている底層の微生物群集構造は,表層のそれと大きく異なっていることが明らかになった。T-RF(terminal-restriction fragment)の60bpと456bpに特徴的なピークが認められ,貧酸素水塊の優占種由来と考えられた。表層では300bpおよび360bpに大きなピークが現れており,放流水由来の高濃度の有機物,栄養塩に影響されていると考えられた。このように,それぞれの調査地点ごとに特徴的なT-RFが認められたことから,下水処理水がつくる環境勾配が微生物群集構造に影響を与えていることが示唆された。
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