2005 Fiscal Year Annual Research Report
量子情報時代の新暗号基礎:量子状態識別問題の暗号論的性質解明とその応用
Project/Area Number |
17700007
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
河内 亮周 東京工業大学, 大学院・情報理工学研究科, 助手 (00397035)
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Keywords | 量子状態識別問題 / 量子公開鍵暗号系 / 平均時・最悪時計算量の等価性 / グラフ自己同型性判定問題 |
Research Abstract |
本研究課題における今年度の主な研究成果は(1)ある特殊な2種類の量子状態の識別問題が暗号論的性質を満たすことの理論的証明、(2)その識別問題に基づいた量子公開鍵暗号系の提案と理論的安全性評価、の2点である。 まず成果(1)に関して、本研究ではある二つの量子状態の識別問題が(i)落とし戸を持つ、(ii)平均時の困難性が最悪時の困難性と等価である、(iii)最悪時の困難性が少なくともグラフ自己同型性判定問題の最悪時困難性と同等かそれ以上である、という三つの暗号論的性質を満たすことを証明した。 例えばこの問題を公開鍵暗号系に利用することを考えた場合、敵対者には暗号文が区別できないが、正しい秘密情報を持つ受信者には暗号文を正しく解読できるという性質が必要となる。性質(i)はこの機能を提供するものである。また、ある計算困難な問題を暗号に利用した場合、実際にはランダムに問題生成を行うため、その問題の最悪時困難性が保証されているだけでは不十分である。性質(ii)はこの識別問題の平均時困難性が最悪時困難性によって保証されることを示している。さらにその最悪時困難性は性質(iii)により保証されている。なお、このグラフ自己同型性判定問題は量子計算機を用いても効率良く解けるかどうか判明しておらず、少なくとも現在のいくつかの量子計算機上のアルゴリズムの設計手法では解けないという否定的な結果もいくつか知られている。 この三つの性質を利用することで成果(2)の量子公開鍵暗号系を構成することが可能となった。この公開鍵暗号系における暗号の解読は少なくともグラフ自己同型性判定問題を解くことと同等かそれ以上に難しいことが証明可能であるため、現在知られている量子計算機上のアルゴリズムでは解読困難であるといえる。
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