Research Abstract |
骨格筋は非常に再生能力の高い組織である。しかし,一側腓腹筋へのLPS(lipopolysaccharide ; L)と高張食塩水(H)の複合投与(LH)による筋障害性慢性痛症モデル動物では,足底のvon Freyテスト(VFT)により,長期にわたる足底の痛み行動亢進を示す。一方,このモデルにおいて急性期坐骨神経ブロック処置によりその長期亢進は減弱傾向を示し,LやHの単体投与,針刺しのみでは痛み行動長期亢進はみられないことが明らかとなった。次に,種々の刺激によってさまざまな痛み行動パターンを示す筋障害性モデル動物を用いて,痛み行動と末梢障害筋の傷害・再生プロセスとの関係を組織学的に検討した。adult SDラットの一側腓腹筋に2μg/kgのL投与24時間後にH(100μl×5回,90分間隔)を投与(LH群),LH処置1日後に坐骨神経ブロック処置(LH-B群;長期痛み行動亢進が減弱),Lのみ投与(L群;長期痛み行動亢進なし),生理食塩水(S)投与24時間後にH投与(SH群;長期痛み行動亢進なし),Sのみ投与(SS群;長期痛み行動亢進なし)し,1,3,7,14日後(急性期)と6,16週後(慢性期)に未固定の下腿三頭筋を取り出して凍結切片を作成しH-E染色後に光学顕微鏡で検鏡した。その結果,投与後6,16週目ではLH群だけに両側の痛み行動亢進が持続していたが,処置側のみに一般的には痛みを生じないとされる再生像(大小不同の中心核線維)を示した。その所見は痛み行動の亢進減弱を示すLH-B群でも同様であった。急性期では,L群,SH群,SS群に局所的な炎症がみられ,LH群では著明な浮腫と広範な筋線維壊死に至る炎症増強がみられた。また,急性,慢性期ともすべての群で対側筋や同側異名筋には組織学的変化がみられなかった。つまり,1)長期的な痛み行動亢進の有無に関わらず慢性期の障害筋組織像に違いが認められなかった(いずれも筋は再生に至っていた),2)両側の痛み行動亢進が生じたにもかかわらず,一側の筋組織変化しかみられなかったことから,慢性期の痛み行動亢進は末梢障害筋からの直接的なシグナルによって起こっているものではないことが示唆された。しかし,筋障害が慢性的な痛み行動を誘起するきっかけとなったことは確かであるため,傷害急性期の炎症部位から発せられるメッセンジャーとなるべき物質がトリガーとなり,何らかの中枢機序が関与して慢性痛を引き起こしたと考えられる。現在,不活動後の筋再生メカニズムの解析についても組織学的に検討をすすめている。
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