2005 Fiscal Year Annual Research Report
中世ラテン世界とイスラーム世界における倫理・法思想の比較思想的考察
Project/Area Number |
17720002
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
山本 芳久 千葉大学, 文学部, 助教授 (50375599)
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Keywords | トマス・アクィナス / イブン・ルシュド / 倫理学 / 神学 / 哲学 / 法哲学 / キリスト教 / イスラム教 |
Research Abstract |
中世においては、ラテン世界においても、イスラーム世界においても、法は宗教(啓示)によって根拠づけられていた。それに対して、西欧の近代法においては、法は、基本的に、宗教や倫理とは区別されたものとして扱われる。この点において、西欧近代はイスラーム世界と大きく異なっている。本研究は、このような相違をその起源にまで遡って分析することによって、思想史研究の空白部分を埋めるとともに、現代における文明間対話という焦眉の課題に対して貢献することを目的にしている。 古代末期から中世におけるキリスト教思想とイスラーム思想の相互関係を考察するさいには、二つの時期に着目する必要がある。一つは、キリスト教徒の知識人たちがイスラーム世界においてギリシア哲学の翻訳・注釈活動を遂行した九・十世紀であり、もう一つは、イスラーム世界からラテン・キリスト教世界にギリシア哲学が伝えられた十二世紀である。 十二世紀に関しては、ラテン・キリスト教世界に最も大きな影響を与えたイスラーム世界の哲学者であるイブン・ルシュドの『法学と哲学の関係を定める決定的議論』を分析した。九・十世紀に関しては、アラビア語においてキリスト教神学の著作を残しているヤフヤー・イブン・アディーの『性格の陶冶』に関する論文を執筆し、以下のようなことを明らかにした。 すなわち、ヤフヤーは、特定の宗教・宗派の立場を前提にしたうえでの倫理を展開しているのではなく、多宗教や多宗派に開かれた形での自己超越的な理性の立場を強調している。そして、このような仕方で、特定の啓示に依拠するのでも宗教性を排除するのでもなく、あくまでも理性の立場に踏み留まりながら超越者に開かれた仕方で考察を進めるという態度自体が、イスラーム世界におけるギリシア的な知の伝者としての役割を担っていた少数派であるキリスト教徒としてのヤフヤーの置かれていた微妙な立場の絶妙な表現であると考えられる。
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