2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17720006
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Research Institution | Osaka Sangyo University |
Principal Investigator |
柿本 佳美 大阪産業大学, 教養部, 非常勤講師 (70399088)
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Keywords | 生命倫理 / 選択的中絶 / フランス / 生命 / 人格 / 尊厳 / 生殖補助医療 |
Research Abstract |
本年度では、中絶の合法化と選択的中絶を手がかりに、フランス生命倫理における生命観について調査を行った。 調査の結果、フランス社会の場合、1.中絶は女性の身体への自由として社会的合意がほぼ成立しており、選択的中絶もまた、カップルの判断として社会的合意が得られていること、また2.フランス生命倫理における「人格」概念が身体を座とする概念であること、3.したがって人間身体は尊厳ある存在であり、この原則からヒト胚利用によるES細胞研究等が制限されること(人の生命の尊厳ではなく)、4.生殖補助医療に関しては、生殖医療全般の進歩によって胎児が将来の家族の一員として認識され、「欲しいときに一人の子どもを」という中絶合法化運動のスローガンが生殖の場面でも実現しつつあること、がわかった。この反面、障害を持った子どもの社会的受け入れは進んでいるとはいえず、ペリュシュ事件において問題となった「社会的連帯」はあいまいなままであることから、選択的中絶を是認する理由の一端になっている。 以上の結果を踏まえ、2005年度日本倫理学会第56回大会(岡山大学)において「フランス生命倫理における『人格』概念」と題して報告を行った。 フランス生命倫理においては「生命」概念そのものを問うよりも、人間身体そのものに対して認められる「尊厳」を人間身体尊重の原則の基盤に据えることで、生命がどの時点から発生するかという形而上学的問題には踏み込まない。このため、生殖に関わる医療技術の諸問題は、生命観そのものを問うよりも人間の身体が他の物質的存在とは異なる価値を持っのはなぜなのかという問題にも関わってくるように思われる。こうした点を踏まえ、2006年度では、「生命」概念だけでなく「身体」と「尊厳」の概念にも重点をおいて、検討を進める。
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