2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17720006
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Research Institution | Osaka Sangyo University |
Principal Investigator |
柿本 佳美 大阪産業大学, 教養部, 非常勤講師 (70399088)
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Keywords | 生命倫理 / 選択的中絶 / フランス / 生命 / 人格 / 尊厳 / 生殖補助医療 / 障害 |
Research Abstract |
今年度は、中絶をめぐる日本における言説の変遷をまとめるとともに、選択的中絶と障害者の生の権利の検討を通じて、個々人の自己決定と社会全般の価値観・規範意識の関係を考察した。 今年度の調査において明らかになったのは、「尊厳」と「人権」を原則とするフランス生命倫理法およびEUにおける生命倫理指針が、中絶や臓器移植など、議論によっては異なる権利主体の間の利害対立と見なされうる個々の問題については、ある特定の条件下でのみこれらの原則を解除するという形を取ることで、「尊厳」および「人権」原則を固守する点である。これにより、医療技術の発展によって日々変動する社会の様々な要請に対処すると同時に、当該技術によって影響を受ける人間の権利の擁護を考慮することが求められると考えられる。 ところで、出生前診断による選択的中絶については、その社会でどのように障害者が受け入れられているかによってスティグマが発生し、これにより選択的中絶への決断が後押しされる。胎児の異常を理由とする中絶を認めるフランスでは、障害児の数が少なく、これにより障害児教育システムの整備が遅れている。そして、障害者の社会的受け入れの現状が障害者への偏見を増幅させ、選択的中絶を許容する社会的土壌を再生産している。こうした状況は、個々の自己決定が社会的状況に大きく左右されるだけでなく、自己決定を最優先に重視する現代社会においては、その倫理的性質まで把握していないため、個々の自己決定が社会の価値規範を増幅させる働きを持つことを示している。 なお、以上の研究成果については、PND研究会(「遺伝医療における心理的支援に関する研究」、玉井真理子信州大学教授代表)、および京都生命倫理研究会(「生命の尊厳をめぐるアメリカ対ヨーロッパの対立克服のための方法論的研究」盛永審一郎富山大学教授代表、との共催)においても報告した。
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