2005 Fiscal Year Annual Research Report
<皇国史観>を中心とする国体イデオロギー研究を通じた、戦時期思想史像の再検討
Project/Area Number |
17720014
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
昆野 伸幸 東北大学, 大学院・文学研究科, 助手 (00374869)
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Keywords | 皇国史観 / 国体論 / 『国史概説』 / 平泉澄 / 三井甲之 |
Research Abstract |
文部省が昭和18(1943)年に刊行した『国史概説』を分析するとともに、その特質を浮かび上がらせる比較対象として平泉澄、三井甲之の思想を検討した。従来これらのテキスト・思想家は、昭和期の国体イデオロギーを代表する存在として一括されてきた。まずはこれらの相違を明瞭にすることを目的に、大正末〜昭和初期の平泉、敗戦後初期の三井の思想を論じた。 まず前者において、平泉澄の神代観をうかがうために、間接的ながら彼の人類学観を検討した。人類学に対抗した平泉は、歴史学の対象時期を神武建国以後と見なし、神代や先史時代への言及には禁欲的であった。平泉史学の根拠としてあったのは決して神話・神代ではなかった。「教育勅語」をはじめとする明治期の国体論そしてこれと連続する『国史概説』が天皇支配の正統性根拠を神話に求め、その神話と歴史を融合させていたことを考えれば、平泉史学における神代の「歴史」からの排除は、まさに新しい国体論の誕生を準備する、極めて重要な意味を有していた。この点において、平泉と『国史概説』との間には明らかに懸隔があった。 次に後者について。研究を進める過程で、三井の自筆原稿「蓑田胸喜君の霊にさゝぐるのりと」を入手することができた。三井による蓑田追悼文は、山梨県立文学館に複数の版が所蔵されているが、今回入手した版を含めた成稿過程を整理するとともに内容上の変化を辿った。それによって、戦後の三井が、昭和21(1946)年5月を画期として大きな思想的変化を生じ、戦前との一定の断絶を示すことを解明した。『国体の本義』『国史概説』に示される国体イデオロギーは、昭和20(1945)年8月の敗戦を以て、直ちに消滅したわけではない。敗戦後の三井における、自らの思想の再編のさまは、まさに昭和戦時期の国体イデオロギーを捉え直す上でも重要な作業である。
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Research Products
(2 results)