2005 Fiscal Year Annual Research Report
楽譜出版活動揺籃期のイングランドにおける作品伝達の変容
Project/Area Number |
17720019
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
能登原 由美 広島大学, 大学院教育学研究科, 助手 (60379865)
|
Keywords | 16世紀イングランド / 手稿譜 / 楽譜出版 / 作品伝達 |
Research Abstract |
本年度は、印刷楽譜集と手稿譜集との相違を明確にするべく、手稿譜集の特徴を明らかにするため、イギリスとアイルランド共和国に赴いて現存の手稿譜集を対象に以下の調査を行い考察した。 (1)16世紀後半に成立したとみられる現存の手稿譜集93点について、手稿譜集の内容-手稿譜集に収められた曲の作曲家やジャンル-について検証した。 (2)上記93点うち、現物(マイクロフィルムを含む)を調査することのできた70点について、写譜の状態-筆記、余白とレイアウト、タイトルと作曲家名の記載-を検証した。 (3)検証の結果、16世紀後半のイングランドで成立した手稿譜集には、手稿譜集全体を通じてその内容や写譜の状態に統一性のある場合とない場合があることが明らかとなった。 (4)さらに、16世紀後半のイングランドで成立した手稿譜集には3つのタイプが存在することを明らかにした。a)写本全体を貫く意図はないが、長年の間に書きためられた結果、成立したもの、b)コレクションとして作成されたもの、c)献呈・贈呈用に作成されたもの。このうち最も多いのは、最初のタイプである。 (5)以上のことから、印刷楽譜集と手稿譜集の間には、a)楽譜集として成立するまでの時間の長さ、b)楽譜集全体を貫く意図の有無、という2点において相違がみられる可能性を指摘した。 来年度は、16世紀前半に成立した手稿譜集をも調査することによって、上記の考察をさらに深めるとともに、印刷楽譜集と手稿譜集の特徴を比較することによって、両者の意義を明確にしたい。
|