2006 Fiscal Year Annual Research Report
未刊注釈書を中心とした近世中〜後期における徒然草受容史の研究
Project/Area Number |
17720034
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Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
川平 敏文 熊本県立大学, 文学部, 助教授 (60336972)
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Keywords | 徒然草 / 井村信成 / 徒然草隠解 / 講釈 / 注釈史 / 受容史 |
Research Abstract |
第一に、金沢市立玉川図書館に赴き、近世前〜中期の成立と思われる『徒然草抄』(写本)を調査した。内容から、歌学者系の著者の手になると想像されるが、追考を要する。また、国文学研究資料館・明星大学に赴き、『徒然草備考』(写本、萩原宗固などの説の書き入れあり)、近世前期写・絵入『徒然草』をそれぞれ調査した。前者は特に、近世中期の歌学者・国学者らの意見が知られて貴重。さらに岐阜県富加町に赴き、近世中期成立の『徒然草講筵要集』および『徒然草師伝抄』(いずれも写本)を調査した。 第二に、近世中期の未刊注釈書、『徒然草隠解』についての考察を学術誌に投稿した(『江戸文学』第36号、平成19年5月掲載予定。校了)。該書は大坂の儒学者・書家井村信成の著。近世中〜後期の徒然草注釈書はあまり残存していないが、本書は一七巻一七冊の大部なもので、当時の徒然草観を知る上で貴重な存在である。該書の解釈の特徴は、徒然草の文章に論語・孟子のそれとの共鳴を見る点で、かなり強引な見方もあるが、それだけに発想は斬新で、現代の解釈に再考を促すものもある。信成は伊藤仁斎に始まる古義学派の流れを汲むが、従来この学派は徒然草に否定的と思われていた。その点においても注目される。また、本書に関する考察の一部は、単著『兼好法師の虚像-偽伝の近世史-』(平凡社選書、平成18年)第7章において発表した。 第三に、近世中期成立の徒然草注釈関連書である『徒然草講筵要集』(岐阜県富加町松井家資料館蔵)の翻字素稿を作成した。該書は松永貞徳の高弟宮川松堅の弟子で、美濃南宮山近辺に住した、安田迂庵なる人物が執筆したもの。徒然草のどの章段を、どのように講釈すれば得心がいくかというその要領が記されており、単に読書というだけではなく、「講釈」という形態での受容も考えてゆかねばならないことを改めて確認させる資料である。今年度中に学術誌に公表予定。
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