2005 Fiscal Year Annual Research Report
ロシア文化史のコンテクストにおけるミハイル・バフチンの記号概念の再検討
Project/Area Number |
17720044
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
番場 俊 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 助教授 (90303099)
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Keywords | バフチン / 記号論 / ドストエフスキー / 告白 / 司法改革 / 小説 / ロシア / ロシア・アヴァンギャルド |
Research Abstract |
本研究は、19世紀後半ロシアの言説状況との関係におけるバフチンの記号概念の位置づけと、20世紀初めに現れた新しい記号概念とバフチンの記号概念との比較という二つの研究課題を有機的に組み合わせることを狙いとしているが、本年度はとくに前者を中心に進めた。 1 (1)バフチンが自らの記号概念を練り上げるうえで重要な役割を果たしドストエフスキーは、1864年のロシア司法改革によって開かれた新たな言説空間に敏感に反応していた。この言説空間の特徴を明らかにするために、8月25日-9月3日に、サンクト・ペテルブルクのロシア・ナショナル・ライブラリーとモスクワのロシア国立図書館で調査をおこない、新たな司法制度の実態とそれに対するジャーナリズムの反応に関する資料を収集した。 (2)ドストエフスキーの『作家の日記』における裁判関係の記事、および彼が依拠した『声』紙に掲載された裁判速記録を検討し、バフチンが多用する「声」の隠喩が、19世紀後半のロシアにおいて、作者/読者の欲望の焦点として浮上していたことを確認した。 (3)バフチンが多くの頁を費やして分析した文学における「告白」の言語行為に注目し、それを司法の領域における「自白」および宗教の領域における「告解」の言語行為と関連づけ、ドストエフスキー、レスコフ、トルストイの作品の比較を通して、告白と身体と言語の関係の歴史性に関する論文をまとめた。 2 20世紀初めのロシアに現れた記号観の一端を探るべく、マレーヴィチとフロレンスキーの記号概念に注目し、それを伝統的なイコンにおける記号概念と関係づけるための予備的考察をおこなった。バフチン、マレーヴィチ、フロレンスキーの三者の記号概念の違いは大きいが、その差異を新たに意味づけしなおすためには、それぞれにおける「顔」の扱いに焦点を当てることが有効であろうとの見通しを得た。
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Research Products
(1 results)