2006 Fiscal Year Annual Research Report
ロシア文化史のコンテクストにおけるミハイル・バフチンの記号概念の再検討
Project/Area Number |
17720044
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
番場 俊 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 助教授 (90303099)
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Keywords | バフチン / 記号論 / ドストエフスキー / ジャーナリズム / ヤンポリスキー / 受肉 / アケイロポイエトス / 写真 |
Research Abstract |
バフチンの記号概念を19-20世紀のロシア文化史のコンテクストのなかで再考するために、本年度は以下の研究をおこなった。 1 9月4日-7日に北海道大学スラブ研究センターで調査をおこない、ドストチフスキーの創作に深い影響を及ぼしたとされる犯罪記事や、1864年の「大改革」以降の裁判制度に関わる資料を収集し、検討した。バフチンはドストエフスキーのエクリチュールを「新聞」や「速記術」といった比喩を使って説明しているが、1860-70年代のロシアに遡ってみた場合、それは決して単なる比喩ではなく歴史的現実に根ざしたものであること、乱れ飛ぶ情報に翻弄される雑報記者や、口述者の声に従う速記者が強いられる一種の盲目性が、ドストエフスキーの小説における「パースペクティヴを欠く視点」というバフチンのアイデアにつながっていることを確認した。 2 「パースペクティヴを欠く視点」という概念をバフチンから取り出して発展させた現代の批評家であるミハイル・ヤンポリスキーのテクストを検討し、語りの視点が対象に近接し、身体が接触することによって引き起こされる言語の歪曲について考察した。 3 身体の接触が引き起こすパースペクティヴの破壊という事態と、とりわけ初期バフチンにおいて顕著な、記号の「受肉」への強い志向の関係を検討した。8-9世紀の聖像論争において大きな重要性をもった「アケイロポイエトス」(人の手によって作られたのではない神の像)の観念は、近代的な「表象」概念に対する強力な批判となりうるものであって、20世紀のアヴァンギャルド芸術や写真テクノロジーをめぐる言説のうちに復活していることが認められる。「受肉」、「表象」、「写真」といった概念の編制を検討することによって、バフチンの記号概念が20世紀においてもつ両義的な位置を明らかにした。
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Research Products
(2 results)