2005 Fiscal Year Annual Research Report
船舶のレトリック分析を通してのコンラッドの初期モデニズムの形式研究
Project/Area Number |
17720052
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Research Institution | Kushiro Public University of Economics |
Principal Investigator |
伊藤 正範 釧路公立大学, 経済学部, 助教授 (10322976)
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Keywords | ジョーゼフ・コンラッド / ダーウィニズム / 社会ダーウィニズム / 船舶 / モダニズム |
Research Abstract |
本研究は、ダーウィニズムからモダニズムへと至る道筋に現れるさまざまな船舶のレトリックに注目して、コンラッド作品の解析を試みるものである。研究初年度である本年は、19世紀後半の船舶にまつわるさまざまな言説を収集・解析することに注力した。対象は19世紀の海洋文学(大衆向けのものを含む)や、Fairplayをはじめとする海事関連の雑誌などである。 その中で当時のイギリス社会における商業船舶や船員の多種多様な位置づけが明らかになってきた。当時イギリス経済が長い不況に沈む中で、重視されたのはイギリスの経済的な競争力の強化であった。そのため商業船舶もまた、帆船からより効率の良い汽船へと急速に切り替えられることになる。だが同時に対処しなければならないのは深刻な失業問題であり、その中で船舶・船員にまつわる言説は大きく二通りに分かれていく。一つ目は当時問題となっていたイギリス人船員の不品行を批判し、むしろ勤勉な外国人船員を雇用すべきであると主張するもの、二つ目は帆船の持つ過去のイギリスとのつながりを強調しつつ、同時にイギリス人船員の未来に向けた進歩を確証するもの、である。前者はイギリスの経済的側面に、後者は精神的側面にそれぞれ重きを置いたものであるが、この二つの立場は互いに交わることはない。そして一つ目の言説の背後にあるのが社会ダーウィニズム的な退化への懸念であることは明白である。 コンラッド自身の語りには、実はこの二つの言説が同時に内包されている。すなわち、イギリス人船員の堕落に対する非難と彼らの外国人嫌悪に対する侮蔑が、過去のイギリスとつながる帆船への愛着とない交ぜにされているのである。ここで考慮すべきは、もちろんのことながら、ポーランド人であったコンラッド自身の背景であり、その複雑な位置づけが語りに及ぼした影響である。今後、今年度得られた資料を基に、ダーウィニズムを起点としたモダニズムの発生を考慮していく。
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