2006 Fiscal Year Annual Research Report
鴎外たちを取り巻く近代都市のネットワーク十九世紀末ベルリンにおける生の変容と文学
Project/Area Number |
17720072
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
美留町 義雄 大東文化大学, 文学部, 助教授 (40317649)
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Keywords | 森鴎外 / ベルリン / 都市論 / 日・独比較文学 / 日本近代文学 / ドイツ近代文学 / ヴァルター・ベンヤミン / 衛生論 |
Research Abstract |
※研究代表者作成 論文(単著)「衛生年ベルリン-鴎外のもう一つの都市体験」を執筆。衛生学を修めるべく、ドイツ留学した軍医官森林太郎(鴎外)が、ベルリンでどのような衛生政策に触れたのかを論述した。 第一章は、ベルリンの都市建築を扱い、中庭を取り囲む「ミーツカゼルネ」式の集合住宅を、鴎外が衛生上間題とした事実を、彼の衛生学論文から詳述した。そして『舞姫』などの文学作品の叙述においても、こうした彼の見解が反映されていることを論究した。 第二章ではベルリンの上水道敷設の歴史とその展開をテーマにし、鴎外が積極的に視察したベルリンの水道網について調査して、当時の日本では想像すらつかないこの衛生ネットワークを、鴎外がどのようにとらえて紹介しているのかを論じた。 第三章ではベルリンの下水道を扱い、当時蔓延していたコレラやチフスなどの伝染病を、下水道敷設を筆頭とするペルリンの衛生政策がどのように駆逐していったのか、その歴史的プロセスと鴎外との関わりについてまとめた。 最後の四章では、こうした衛生政策をドイツで学んだ鴎外が、帰朝後、東京の市区改正事業に参与したことを踏まえ、立ち後れた祖国の衛生と彼がいかに向き合ったのかを論究した。鴎外が問題視したのは、衛生とは必然的に一般大衆を相手にしなければならないのに対し、当時の日本では、この「大衆」という均質な単位が発見されていないことであった。ゆえに、全市に衛生ネットワーが展開したベルリンとは異なり、東京の衛生政策は、結局は部分的な事業に留まった。こうした祖国の限界を、鴎外が悒悒たる思いで見つめていた点を論述し、本論のまとめとした。
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