2005 Fiscal Year Annual Research Report
極小主義による史的統語論研究:英語史における人称代名詞の属性の変化を中心に
Project/Area Number |
17720118
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Research Institution | Tsurumi University |
Principal Investigator |
宮下 治政 鶴見大学, 文学部, 講師 (30386908)
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Keywords | ミニマリスト・プログラム / 英語史 / 中英語 / 言語変化 / 言語習得 / 人称代名詞 / 語順 / 動詞第2現象 |
Research Abstract |
初期の英語、例えば古英語において、前置詞(以下P)の補部が人称代名詞(以下PPrn)である場合、このPPrn補部がPに先行できたことはよく知られているが、本研究ではこの語順の消失時期・派生のされ方・消失の原因に関して、以下のことを明らかにした。 1.中英語の電子コーパスを使用した調査によると、PPrn補部がPに先行する語順は、初期中英語から後期中英語への過渡期にかけて消失している。なお初期中英語では、PPrn補部がPに隣接しつつ先行してる例と隣接せずに先行している例の両方が観察された。 2.Chomsky(2000,2001,2004,2005)が提唱するミニマリスト・プログラム、およびMiyashita(2004)の従属節PPrn目的語に対する分析を踏襲すると、PPrnは解釈不可能な接語素性(以下uCl)をもち、機能範疇に義務的に後接化するため、PPrn補部がPに隣接しつつ先行してる語順は、PPrn補部が機能範疇のC・T・Kに後接化することによって派生されていることになる。またPPrn補部がPに隣接せずに先行してる語順はPPrn補部のC・Tへの後接化よって派生されていることになる。この説明のもとでは、PPrn補部がPに先行する語順が英語史において消失したという事実は「C・T・KへのPPrnの後接化が失われた」と捉え直すことができる。 3.言語変化とは、子供が親の世代とは異なった方法で言語習得を行っていることが反映したものだと考えることができるが、Lightfoot(1991)の考えに基づくと、PPrnがuClをもつという証拠を子供に与えているのが主節の動詞第2現象(以下V2)である。このV2の消失によってPPrnから解釈不可能な接語素性が失われ、機能範疇に後接化する必要がなくなる。「この変化の帰結としてPPrn補部がPに先行する語順が失われる」という原理的な説明が可能である。
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