2006 Fiscal Year Annual Research Report
極小主義による史的統語論研究:英語史における人称代名詞の属性の変化を中心に
Project/Area Number |
17720118
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Research Institution | Tsurumi University |
Principal Investigator |
宮下 治政 鶴見大学, 文学部, 講師 (30386908)
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Keywords | ミニマリスト・プログラム / 英語史 / 目的語転移 / 人称代名詞 / スカンジナビア言語 / 他動詞虚辞構文 / 文体的前置 / 冠詞 |
Research Abstract |
初期の英語において、スカンジナビア諸語に特有の目的語転移(以下OS)が可能であったことは、Roberts(1995)およびWurff(1997)によって指摘されているが、その出現時期・消失時期・派生のされ方・出現・消失の原因は未だに明確ではない。本研究では、英語史におけるOS構造の出現時期・消失時期・派生のされ方に関して、以下のことを明らかにした。 1.電子コーパスを使用した調査によると、英語史において、OS構造は14世紀後半に出現し、17世紀後半に消失している。OSは、完全名詞(以下FN)・人称代名詞(以下PPrn)の両方のOSが可能なアイスランド語タイプとPPrnのみのOSが可能な本土スカンジナビア諸語タイプに分類されるが、英語史において観察されるものは、後者であった。 2.Cardinaletti & Starke(1996, 1999)等のPPrnの三分法に立脚したMiyashita(2004)の提案を踏襲すると、OSが適用されるPPrnは、解釈不可能な接語素性を持たないD^0、すなわち弱代名詞と考えることができる。また、Chomskyが提唱するミニマリスト・プログラムでは、OSの適用される要素が移動後に定性等から構成される解釈複合を担う場合にのみ、OSが適用可能である。このような考え方により、英語史においてPPrnのOSが可能であったことが捉えられる。 3.アイスランド語タイプのOSがFNにも適用可能であるという事実は、当該言語において他動詞虚辞構文や文体的前置が可能である事としばしば関連づけられてきたが、FNのOSが不可能な後期中英語・初期近代英語においてもこれらは観察されている。英語史においてPPrnのみのOSが可能であった事実は、これらと関係づけられるべきではなく、渡辺(2003)が示唆しているように、アイスランド語と初期の英語の間の冠詞体系の違いによって適切に説明される。
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