2005 Fiscal Year Annual Research Report
日本語教材における機能語と構文パターンの学習順序に関する認知言語学的研究
Project/Area Number |
17720128
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
尾谷 昌則 東北学院大学, 教養学部, 講師 (10382657)
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Keywords | 日本語教育 / 機能語 / 学習順序 / 認知言語学 / 日本語教材 |
Research Abstract |
日本語の機能語や構文パターンに関する効果的な学習順序について研究を進めるために、まず日本語教育教材を30冊選定し、その中で学習対象とされている全ての日本語表現をテキスト化し、各表現・各用法別にデータベース化することが本研究の第一歩であった。しかし、頼みとしていたADFスキャナによる自動読込、及びOCRソフトによる文字認識の精度が予想以上に悪く、結局はほとんど全て手作業で行わざるを得なくなり、テキスト化は1冊しか済んでいない。しかし、たとえ1冊でも学習項目についてはある程度の特徴が見えてきた。初級の一番最初、つまり初めて文法を学習する際には、どの言語でも最も基本的な文法格であろうと思われる主格(ガ格)や対格(ヲ格)が一切姿を現さず、主題マーカーである「ハ」と述語を組み合わせたものばかりであった。これは、『枕草子』で最も有名な「春はあけぼの」と同じ文法構造であり、三上章やLi & Thompsonが指摘するように日本語が言語類型論において「主題型言語」と分類されることにも矛盾しない。また、ハの次に教えられる機能語が「9時から10時まで」のような起点のカラ格と着点のマデ格であった(第4課)が、これは時間ドメインに基づく用法である。認知言語学では時間ドメインよりも空間ドメインの方が人間にとってより根本的な経験的基盤であると考え、空間から時間へのメタファーを規定事実のように捉えているが、実際には空間ドメインに基づく用法よりも時間ドメインに基づく用法が先に教えられている。これは理論と実践の矛盾である。ただし、学習項目の配置は文法知識の積み上げだけを考えて成されるものではない。このテキストでは日本で働くビジネスマンを学習者として想定しているようなので、文法の積み上げよりもビジネスシーンで必要になる表現を優先しているだけとも考えられる。理論と実践のどちらを優先させるかというバランスの問題が今後の課題として見えてきた。
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