2005 Fiscal Year Annual Research Report
出版宗教本にみる19〜20世紀前半におけるインドネシアのイスラーム思想展開
Project/Area Number |
17720174
|
Research Institution | Tenri University |
Principal Investigator |
菅原 由美 天理大学, 国際文化学部, 講師 (80376821)
|
Keywords | 思想史 / 宗教学 / 出版 / イスラーム / 近代 / インドネシア / 宗教教育 |
Research Abstract |
1.19世紀半ば、オランダ領東インド(現在のインドネシア)における巡礼者やイスラーム寄宿塾の増加に合わせ、東南アジア出身のムスリムの共通語であるマレー語によって執筆された宗教出版物が、シンガポール及びボンベイで出版され始め、東南アジア地域に流通を始めた。この出版物の中に、アラビア文字のジャワ語(ペゴン)による出版物が混じるようになった。20世紀に入り、チレボン及びスラバヤ等ジャワ北海岸各地において、ペゴンを用いた宗教書籍出版がアラブ人商人によって開始された。 2.ペゴン書籍の内容は、アラビア語書籍の翻訳、抄訳にとどまらず、自由に創作された作品も登場するようになった。特に人気を博した書籍は、ムスリムとしての生活の基本を教えるものであり、ムスリムとしての基礎知識に加え、結婚、礼拝、巡礼などについて項目ごとに簡潔にまとめられており、実生活のなかで手引書として用いることができる宗教書であった。例えば、ソレ・ダラットの著書『初学者のための規範集』が有名である。 3.これらの書籍は、より難解な宗教書籍の内容を、一般読者が理解または実践できるように、様々な工夫が挿入されていた。またより手軽で、安価であったため、都市を中心に広まり、農村においても、礼拝所において、キヤイ(宗教指導者)とともにグループで勉強会が開かれていた。1950年代まで、こうしたペゴンによる宗教書籍は当地のムスリムによって広く読まれていたものと予想される。こうして、オランダ統治下にありながら、実生活の規範としてイスラームを取り入れ、ムスリムとしてより「適切な」生活を送ることを人々が望む方向にあったこと、そして宗教指導者も、より民衆の要望に合致したかたちでの知識提供を行っていったことがうかがえる。
|