2006 Fiscal Year Annual Research Report
グローバリゼーションによるホロコースト表象の変容に関する博物館人類学的研究
Project/Area Number |
17720235
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
寺田 匡宏 国立歴史民俗博物館, 研究部, 外来研究員 (30399266)
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Keywords | ミュージアム / ホロコースト / 展示 / ドイツ / 記念碑 / メモリアル / 収容所 / 追悼 |
Research Abstract |
この研究の目的は、グローバリゼーションの進展に伴って、ミュージアムにおけるホロコーストの表現にどのような特徴が現れているかを探ることである。とくに、ホロコーストのような「負の記憶」に関しては、「体験型展示」の導入の仕方やどこまで「再現」を行うかに関して、国や施設によって位置づけ方が異なる。これらに関して対照的な考え方を持つドイツ、ポーランド、アメリカにおける各施設の展示技法を実証的に分析することによって、グローバリゼーション下におけるミュージアムでのホロコースト表象の特質を明らかにすることを目的とする。 昨年度はおもにポーランドの絶滅収容所跡地がミュージアムになっている施設を調査し、その展示の特徴を抽出したが、今年度は昨年度に収集したデータとの比較のために、ドイツにおいて収容所がミュージアムになっている事例を調査するとともに、その社会的・時代的・思想的背景を明らかにするためにナチス時代の遺構がミュージアム化されている事例とホロコーストをも含むナチス時代がドイッ史全体の中で展示されている事例を調査し、さらに文献調査によってそれを補助するデータを収集した。調査対象は、ダッハウ強制収容所(ミュンヘン近郊)、ナチ党国民大会会場博物館(ニュルンベルク)、ホロコースト・メモリアル(ベルリン)、ドイツ連邦歴史博物館(ボン)、ドイツ歴史博物館(ベルリン)である。また文献調査はコブレンツの連邦文書館において行った。 その結果明らかになったことは、第一に、ナチス遺構も含めた収容所の現場における展示に関しては、客観的なアプローチが中心であり、強い感情を想起する展示物は避けられていることである。収容所における残虐な行為を強調することよりもむしろ、収容所を生み出したシステムの中で、そのような残虐な行為が行われたことを理解させるという方向が見られ、文章、図などが積極的に用いられ、説明的な展示が主流であるといえる。第二に、ホロコーストの表現に関して、自覚的であることである。たとえば、ホロコースト・メモリアルでは、ホロコーストそのものに関する展示と同時に、それがどう表現されているかが、ドイツ国内だけでなく東欧諸国の例も含めて展示されている。このことは、ホロコーストそのものだけでなく、その表現の問題に敏感であることを示している。
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