2005 Fiscal Year Annual Research Report
幕末明治期日本におけるオランダ国際法学受容の政治思想史的意義
Project/Area Number |
17730109
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
大久保 健晴 明治大学, 政治経済学部, 講師 (00336504)
|
Keywords | 日本政治思想史 / オランダ法学 / 万国公法 / 西周 / 政治学 / 幕末明治思想史 |
Research Abstract |
本研究の目的は、幕末オランダ留学を通じて西周と津田真道がもたらした「万国公法」論の検討を中心に、徳川期以来のオランダ法学受容が近代日本における政治意識の形成・転回過程で果たした役割の政治思想史的意義を解明することにある。ライデン大学法学部教授シモン・フィッセリング(Simon Vissering)のもとで学んだ西達による国際法講義筆記訳述『和蘭畢洒林氏万国公法』(慶應4年刊)は、ホイートン(Henry Wheaton)著、丁〓良漢訳『万国公法』(清同治3年刊)と並んで、当時の人々の国際法理解はもとより、公法観念や権利意識、国家意識に大きな影響を与えた。しかしこれまでその検討は史料調査を含め十分にはなされていない。 そこで一年目にあたる2005年度は、オランダ・ライデン大学図書館に赴いて基礎的な史料調査を実施し、これまで重ねて論じられることの多いホイートン『万国公法』との比較を通じて、19世紀後期ヨーロッパ並びにオランダの国際環境と法学的伝統のなかで形成されたフィッセリング『万国公法』固有の性格を解明した。具体的にはまず、同図書館貴重書室に所蔵される、フィッセリングによるライデン大学講義の手書き草稿Dictata de Oeconomia et diplomaticaの調査・解読を行った。ネーデルラント連邦共和国を中心に、ウエストファリア条約からアメリカ独立戦争に至る外交史を検討した同講義には、徹底的に歴史実証的な眼差しから国際関係の変動や国際法の役割が描き出されており、そこからは、同様の外交史料を素材にしながら一貫して国際法原理の抽出を試みたホイートンの一連の研究とは異なる、フィッセリング国際関係思想の特質が浮かび上がってきた。さらに、同時代オランダ国際法学に関する文献の収集・検討を通じて、当時のオランダ法学界においては国際法をめぐって、国際政治の変化を視野に、理論研究より、むしろ実践的な関心のもと具体的な条約研究や外交史研究が広く浸透していたこと、そしてフィッセリング『万国公法』もまたその潮流のもとに成立していたことを明らかにした。
|