2006 Fiscal Year Annual Research Report
失業の履歴現象の原因の識別と定量化に関する計量経済分析
Project/Area Number |
17730136
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
出島 敬久 上智大学, 経済学部, 助教授 (70286756)
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Keywords | 失業 / 履歴現象 / 人的資本 / 交渉力 |
Research Abstract |
失業の履歴現象に関する理論モデルの整理として,第一に失業中の人的資本の劣化に着目したもの,第二に既存雇用者の雇用保障に基づいた交渉力に着目したものについて,その性質を検討した。またこの他に,法的な雇用保障の強弱よりも,解雇時に企業側が負う訴訟リスクなどの不確実性を重視するものが認められた。さらに,労働組合による集団交渉が,一種のコミットメント効果をもつことなどを検討する理論的分析も,既存雇用者の交渉力の源泉を理論付ける意味で有用であった。これらは,不完備契約理論の分析として大きな進展があった分野であるが,こうしたモデルは,マクロ経済における失業の履歴現象の説明としても,既存モデルより有益であることが認められる。 このような人的資本と雇用契約上の要因に二分される履歴現象の原因の識別にあたっては,当然ながら,企業ごとの雇用量や費用条件や外部賃金などの時系列が与えられれば可能である。しかし,集計された雇用量と賃金の時系列だけから識別可能な条件を導くことは困難であった。そこで,上記の検証には,個別企業の雇用量と賃金のデータを必要とする。周知のように,企業ごとの雇用量の変動については,「企業活動基本調査」(経済産業省)などの個票データや有価証券報告書に示される従業員数のデータが必要となる。このうち制約なく利用可能な後者について,データの取得と整理を進めている。 以上と補完的な計量分析として,「賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)の公表データを用いて,各産業ごとの賃金プロファイルを計測するとともに,「毎月勤労統計」(同)から得られる各産業ごとの雇用量の硬直性や流動性を示す指標(Cochrane measureやLilien measure)を算出した。これらにいくつかの傾向は観察されるが,理論モデルと対応関係の薄い記述統計として留保せざるをえない。上記モデルの厳密な識別問題は,構築中の企業単位の雇用量のデータの分析を待っての今後の研究課題とされる。
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