2006 Fiscal Year Annual Research Report
初期近代イギリスにおける自治都市の比較分析-「非公式」な経済社会の実態と影響-
Project/Area Number |
17730215
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
川名 洋 東北大学, 大学院・経済学研究科, 助教授 (70312527)
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Keywords | 自治都市 / コーポレーション / 公式・非公式 / 市民 / ネットワーク / 都市空間 / 公共政策 / 地域経済 |
Research Abstract |
本年度は、初期近代イギリスにおける都市化の様相を解明することを目的に、昨年度の研究動向のサーヴェイと史料調査から得られた仮説をもとにして、自治都市特有の経済関係や社会組織の成り立ちを「公式」・「非公式」という2つの相反する観点から検証する方法の妥当性を確認した。当該時期イギリス都市の市場取引は、人口増加や度重なる食糧危機により深刻化した経済問題を背景に、中央政府及び市自治体の厳しい監視の下に置かれていた。また、大勢の貧しい移入民を受け入れる大都市に典型的な格差社会の広がりは、治安維持と住民統治の強化を促す政策を導いた。そうした公的措置の一方で、都市経済を潤したのは住民と移住民との間の商取引であり、市自治体の管轄圏を越えて周辺地域に広がる信用のネットワークであった。これらを裏付けるために、市議会議事録や裁判記録を詳細に解析した結果、自治都市の経済は、公共政策の波に晒され、制度化が進む一方、行政監視の外で住民個人が結ぶ「非公式」な社会関係に支えられていたことが明らかになりつつある。しかもそこには、多数の非市民とともに、本来良好な自治体運営を担うべき市民も少なからず含まれていたのである。また、これらを踏まえ、イギリスの自治都市を市自治体によって管理された排他的政治共同体ではなく、「公式」・「非公式」両者間の相互作用によって形成される開放的な経済社会として捉える方が適切であることを提起した。
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