Research Abstract |
今年度は,前年度の成果に基づき,各種の認知的バイアスを生じせしめる実験課題を,同時に複数の参加者に回答させ,その反応傾向を類型化することを試みた。その結果,いわゆる論理的推論が要求される課題群,確率的判断が要求される課題群などに分類しうることが示された。しかし,一方で,課題の解決成績と,これらの課題の遂行に影響を与えると考えられた思考傾向尺度との間に有意な関係は認められなかった。 そこで,本年度では,まずいわゆる論理的推論が要求される課題,具体的には仮説検証にもとづいた規則発見課題に焦点を絞り,当該課題における課題解決を促進するために必要な支援手続きのあり方について実験的に検討した。 仮説検証に関する心理学的研究では,複数の仮説をたて,ある仮説に対して確証的な証拠を,別の仮説に対しては反証的な証拠を探索する方略(以下,診断型検証と呼ぶ)の有効性が指摘されている。しかし,診断型検証は,その有効性は認められているものの,実際には極めて採用されにくいことが知られている。これは,1つには,この方略の認知的負荷が高いことが理由であろうが,規範的な仮説検証方略に関する知識および経験が不足していることも原因の1つであると考えられる。そこで,課題解決に先立ち,(a)特別な訓練は課さない群,(b)診断型検証に関する説明を受ける群,(c)診断型検証に関する説明を受けた後で,訓練課題を解き,その検証過程に応じてデブリーフィングを受ける群という3つの実験条件を設定し,条件間での課題解決成績を比較した。その結果,(c)群において,複数の仮説を立てた検証が行われる頻度が高く,また,結果として正解到達率が高くなることが示された。以上から,単に教示を受けるだけではなく,それに即した訓練を行うことが課題解決を促進することが示唆された。
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