2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17730455
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
白水 浩信 神戸大学, 発達科学部, 助教授 (90322198)
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Keywords | 養生論 / 魂(プシュケ) / 身体観 / 機械論的身体 / 産育書 / 心の経験科学 |
Research Abstract |
本年度も引き続き、西欧における医学史、身体文化史に関する内外の先行研究を参考に、西欧養生論文献データベースを充実させていった。特にR・ポーターが遺した研究は、西欧の精神-身体観の系譜を辿る上で有用で、大いに参考になった。まずはポーターに倣い、養生論と教育論に関連する文献をピックアップし、西洋の身体、人間観に特徴的と思われる文献を現物、複写にて入手した。 また、西欧養生論の特徴を把握するためにも、日本や中国の身体観と比較し、その異同を確かめる必要も生じた。とりわけ教育と直接結びついた養生論として、出産や育児に関する文献に着目した。例えば近世に著された香月牛山『小児必用養育草』(1714)、あるいはこれに影響を与えた中国の産育書について基本的文献を渉猟し、西欧の産育書と比較しながら、根本的な違いは何か、また日本の近代化過程でどのように身体観は変容したか考察した。 西欧の身体観は、ヒッポクラテスやガレノスの治療=養生論の源流にまで遡ってみても、日本や中国のものに比し、かなり科学的、客観的志向が強く、観察や経験に非常に重きをおく体系であった。このような傾向は単に身体に関してのみならず、魂(プシュケ)に関しても合理的説明を追求し、身体と魂に対する配慮としての養生論文化を成立させてきたわけである。しかし18世紀、ド・ラ・メトリーの『人間機械論』(1747)に代表されるように、次第に近代医学は魂ではなく、意識や心(mind)に関心を寄せ、その機能の身体的原因を探るようになっていく。その一方で心の機能そのものに楼小化された経験科学が成立してくるのもこの時期である。このような状況のなかで、西欧養生論の伝統は消失、あるいは変質を余儀なくさせられていく。 本年度の成果として、具体的な史料分析に基づいて、これらの知見を得ることができた。
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