2005 Fiscal Year Annual Research Report
聴覚障害者の生活困難問題への教育的・福祉的対処の類型とその地域的基盤
Project/Area Number |
17730511
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
佐々木 順二 筑波大学, 大学院・人間総合科学研究科, 準研究員 (20375447)
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Keywords | 聴覚障害 / 生活困難問題 / 地域的基盤 / 東京楽善合資会社 / 大日本聾唖実業社 / 東京市 / 札幌市 / 大正期 |
Research Abstract |
本研究は、大正期から昭和戦前期の聴覚障害者の教育後の生活困難問題の具体相と、それへの対処の類型を、当該地域の社会的諸条件との関係から究明しようとするものである。この対処の類型には、(1)聾学校主導型、(2)聾学校主導・社会事業団体補完型、(3)聾学校主導・当事者団体補完型があったと考えられる。すでに、類型(1)については和歌山聾唖興業会(和歌山市、大正11年設立)を、類型(2)については株式会社聾唖工芸品製作所(福岡市、大正8年設立)を対象に、事例研究を実施してきた。そこで本年度は、聾学校主導・当事者団体補完型の一事例であり、官立東京盲唖学校卒業生によって設立された東京楽善合資会社(東京市、大正10年設立)に焦点を当て、その設立の経緯と理念を分析した。また、福岡市の事例との類似性が予測される、札幌市の大日本聾唖実業杜(大正14年設立)に関して、現地での資料収集を実施した。 東京楽善合資会社は、和歌山聾唖興業会、株式会社聾唖工芸品製作所と比較すると、聾唖者の社会的地位向上という設立理念、営利的性格と慈善的性格が併存する経営基盤、卒業生への保護機能という面で共通する要素があった。一方、同会社は、設立・運営の主体が聾唖者であり、設立過程で聾唖学校の財政難、教育力不足が関与していなかった点が、前二者とは異なっていた。これらの相違は、官立東京盲唖学校と地方聾唖学校とのあいだで、教育を支える人的・財政的基盤、および教育実践の歴史的蓄積が大きく異なる点に帰されると推察された。聾唖者主体での設立・運営は、昭和期以降に当事者団体がより明確な位置づけを獲得する過程においても重要な要素となることが示唆された。 次年度は、人的・財政的基盤、教育実績の脆弱な地方聾唖学校において、生活困難問題への対処が可能となるための条件が何であったのかを、札幌市等の新たな事例を補充して総合的に分析・考察したい。
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Research Products
(1 results)