2005 Fiscal Year Annual Research Report
宇宙の階層構造の重力レンズ効果による暗黒物質と暗黒エネルギーの性質の探求
Project/Area Number |
17740129
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高田 昌広 東北大学, 大学院・理学研究科, 助手 (40374889)
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Keywords | 観測的宇宙論 / 重力レンズ / 宇宙の構造形成 |
Research Abstract |
本研究は、現存の観測データあるいは計画中の宇宙論的観測計画を念頭に置きながら、宇宙の質量の大部分を占める暗黒エネルギーと暗黒物質の性質を実証的に解明することを最終目的とする。特に、すばる望遠鏡の観測データを用い、宇宙の階層構造による重力レンズ効果を測定することで、暗黒エネルギー及び暗黒物質の性質を制限する方法に着目している。この観点から、本年度は主に以下の研究成果を発表している。 1.ハッブル宇宙望遠鏡の高解像度データとすばる望遠鏡の広視野カメラによるデータを組みあわせることでA1689銀河団の重力レンズ効果を精密測定することにより、銀河団の質量分布を約10pcから2Mpcに渡る領域で再構築することに成功した。得られた質量分布の動径プロファイルの形状は、冷たい暗黒物質モデルに基づく構造形成シナリオで期待される理論予言と一致することを定量的に示したが、質量分布の中心集中度が理論モデルの予言とは単純には一致しないことを発見した。このような宇宙望遠鏡と地上のデータを組み合わせることで(あるいは、銀河団による強い重力レンズ効果と弱い重力レンズ効果を組み合わせることで)、銀河団の質量分布を詳細に再構築できることを示した初めての結果であることは特筆すべきである。 2.重力レンズ効果は、銀河団の質量分布を視線方向に積分した量にしか敏感でない。(1)で発見されたA1689銀河団の質量分布の異常は、銀河団の質量分布に球対称性を仮定して導かれたものである。そこで、我々はA1689銀河団の質量分布が、冷たい暗黒物質モデルが予言する非球対称ハローモデルで説明できるか定量的に調べた。冷たい暗黒物質の有力候補は重力でしか相互作用しない測度分散が小さい素粒子であるが、この場合銀河団のハローの形状は非球対称であることが自然である。我々は、A1689の質量分布と非球対祢ハローモデルとの比較から、質量分布の異常の発見は若干緩和されることを定量的に示した。多数の銀河団にこの方法を適用し、さらなる統計的研究が望まれることを指摘した。 3.すばる望遠鏡に次世代広視野カメラ・多天体分光器を搭載し、数1000半方度にわたる領域の銀河サーベイを行うことで、暗黒エネルギーの性質を今までにない精度で探求するための計画が検討されている。我々は、この銀河サーベイの観測量を用いることにより、暗黒エネルギーのみならずビックバン背景ニュートリノの質量に厳しい制限を加えることができることを示した。ニュートリノ振動の地上実験はニュートリノの質量に下限を与えているが、上記の銀河サーベイはニュートリノの質量に上限ではなく、実際の測定を可能にすることを指摘した。
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