2005 Fiscal Year Annual Research Report
RMnO_3が示す特異なスピン揺らぎ,格子変位と強誘電性の中性子散乱による研究
Project/Area Number |
17740240
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
梶本 亮一 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究員 (30391254)
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Keywords | マルチフェロイクス / ペロブスカイト型Mn酸化物 / 中性子散乱 / 磁気秩序 / 磁気励起 |
Research Abstract |
1.TbMnO_3の低エネルギー磁気励起 TbMnO_3ではMnのスピンはT_N=42Kで波数ベクトルq_<spin>=0.29b^*のサイン波的な非整合秩序を示すが,T_C=28Kでは磁気秩序がq_<spin>=0.28b^*でbc面内で回転する楕円型らせん秩序に変化すると共に強誘電性が生じる(T.Kimura et al., Nature 426(2003)55;M.Kenzelmann et al., Phys.Rev.Lett.95(2005)087206)。中性子散乱実験の結果,TbMnO_3では10K(<T_C)においてA型反強磁性のゾーン全体に亘って磁気励起が存在し,その分散関係はq=Q-G(Gはゾーン中心)の小さいところを除いて,最近接間相互作用と次近接間相互作用の競合を取り入れたハイゼンベルクモデルで良く記述できることが分かった。さらに,qの小さいところには複雑な構造の励起が存在していることがわかったが,分解能の不足のために詳細な構造まではわからなかった(R.Kajimoto et al., J.Phys.Soc.Jpn.74(2005)2430)。 そこで,TbMnO_3のqの小さい領域における磁気励起を,分解能の高い冷中性子を用いた中性子散乱実験によって観測した。その結果,10Kにおいて磁気秩序の波数付近で図のような3つの分散を持つ特異な励起が観測された。一番上の分散はゾーン中心からゾーン境界まで連続しているのに対し,他の2本はq_<spin>で極小を持ち,q_<spin>よりqが大きくなるにつれ急速に強度を失う。この特異な磁気励起は楕円型らせん秩序という特殊な磁気秩序に起因する可能性がある一方で,電気分極あるいはフォノンと結合した新規な励起である可能性も期待される。 2.Eu_<0.595>Y_<0.405>MnO_3の磁気構造 RMnO_3の磁気秩序と強誘電性の関係を考える上で,電気分極の方向とMnスピンの方向の関係を調べることが重要である。しかしながら,TbMnO_3ではTbのスピンの影響も無視できない。そこで,Rイオンの磁気モーメントの影響を排除するために,RサイトをTbと平均イオン半径が等しく磁気モーメントをほとんど示さないEu_<0.595>Y_<0.405>とした試料における磁気秩序を,パルス中性子回折実験により調べた。この物質ではMnスピンはT_N=48Kで磁気秩序を示す。T_C^c=25K以下でc軸に平行な自発分極が生じるが,分極の向きはT_C^a=23K以下でフリップしてa軸に平行となる(K.Noda et al., cond-mat/0512139)。中性子散乱の結果,磁気秩序の波数ベクトルはq_<spin>〜0.31b^*であることが分かった。また,磁気反射の温度変化から分極の向きの変化に伴ってスピンの向きが変化していることが明らかになった。それは,スピンはT<T_C^aではab面内,T_C^a<T<T_C^cではbc面内に存在し,T_C^c<T<T_Nではb軸に平行になっているという描像とコンシステントである。
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