2006 Fiscal Year Annual Research Report
ガラスのスローダイナミクスにおけるモード結合理論の定量的解釈
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17740274
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
狩野 旬 筑波大学, 大学院数理物質科学研究科, 助手 (50375408)
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Keywords | 複雑液体 / ガラス / 光散乱 |
Research Abstract |
液体ガラス転移のダイナミクスの本質が理解されていないのは、その巨視的性質が実に様々なスケールを持つ運動過程により支配されているためである。平成17年度、比熱測定・周波数領域での誘電測定・光散乱実験では充分観測できなかった複雑液体中でのミクロな動的機構を、フェムト秒パルスレーザーを用いた光カー効果(OKE)を利用したコヒーレントフォノン励起法を用いることで直接時間領域での観測できるシステムの構築を試みた。OKEにヘテロダイン検波システムを取り入れたOHD-OKEシステムを立ち上げを行い、液体中のミクロなゆらぎを観測する事に成功した。平成18年度においては液体ガラス転移を示す系のひとつである水・エタノール二成分混合系に注目した。水・エタノールにおいてはまず低振動領域に現れる揺らぎを前年度にOKEにて観測したが、二成分混合系においては水・エタノール間にできる複雑な水素結合のネットワークが重要と考え特に水素結合間の揺らぎに注目した。そこで低振動領域(長時間領域)とは対照的に高振動数領域(短時間領域)に観測される水素-酸素(OH)結合の揺らぎはラマン散乱実験によって観測した。なおOH結合の揺らぎを他の内部振動モードから分離するために重水素置換した重水溶液にて行った。その結果、OH結合の揺らぎには特徴的な水・エタノール濃度依存性がある事がわかった。エタノール低濃度側においては、水・エタノール分子間をつなぐ水和シェル構造が堅固に構成されており、その構造は濃度によらず支配的である。一方、エタノール濃度が増していくと水・エタノール分子間をつなぐ水素結合のネットワークは連続的に変化していった。さらに永和シェル構造などミクロな領域で形成されるクラスターの大きさはエタノールよりアルキル基の多いブタノールなどに比べ小さい事も見積もられた。過冷却状態下で低振動領域に現れる揺らぎの詳細を明らかにすることでモード結合理論の定量的解析をするまでにはまだ至っていないが、今回ミクロな描像が明らかになった水・エタノール二成分混合系を対象に研究を進めていく計画である。
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